KBICで活躍するトップランナーたち

浅野 薫

日本初の手術支援ロボットを神戸から世界へ

浅野 薫Asano Kaoru

株式会社メディカロイド 代表取締役社長

産業用ロボットメーカーの川崎重工と医療機器メーカーのシスメックスが共同出資し、2013年に設立されたメディカロイド。このたび、開発した「hinotori™サージカルロボットシステム」が、国産の手術支援ロボットとして初の製造販売承認を取得し、脚光を浴びています。手術支援ロボットは、執刀医の手の動きを再現することで、患者さんの体に負担が少ない手術を実現します。メディカロイド橋本康彦会長とともに、開発を牽引してきたメディカロイド浅野薫社長に、これまでの歩みと今後の展望についてお話をうかがいました。

仕事もプライベートも好奇心の先に発見がある

2020年は公私共にいろいろあった1年でした。特に印象深いことを挙げると、仕事ではやはり、2015年から開発してきた手術支援ロボット「hinotori™サージカルロボットシステム」が製造販売承認を取得したことに尽きます。プライベートでは、土器を発見したのですよ。私は神戸市の遺跡が点在している地域に住んでいるのですが、ある日散歩をしていると、視線の先に何やら埴輪や土器らしきものが見えるなと。多分本物だろうと思い、神戸市の文化財課に連絡をしました。最初は信じてもらえなかったのですが、結果的に私の目利きは正解でした。実は昔から考古学のファン。備前焼も好きです。将棋も趣味で、通信教育で五段を取りました。多趣味ですが、どれも仕事には全く活きていません(笑)。でも、何事にも好奇心を持つことは大事。仕事にも通ずることかもしれませんね。

医師の言葉を工学的数値に置き換えられたことで開発が加速

私は大阪大学大学院を卒業後、川崎重工に入社しました。今の川崎重工社長で当社の会長でもある橋本康彦氏とは、当時、共に産業用ロボットの開発を行った仲でした。ご縁があり、東亞医用電子(現シスメックス)に転職したのは29歳のとき。医療機器開発に携わるようになり、前職と大きく変わったのは、医師と話す機会が増えたことでした。初めは付き合い方がわからず、かなり高いハードルを感じました。医師にとってテクノロジーは領域外。我々には医学の知識がありません。しかし、互いに補完的な立場にあるとわかってからは、良好な関係が築けるようになりました。培った経験は、メディカロイドでも大いに活きたと感じています。開発を担うエンジニアたちも若いころの私と同じで、最初は医師と話すことすらままならず、医療業界の方とうまく意思疎通できず戸惑っていたと思います。当初は私などシスメックス関係者が両者の橋渡し的な役割を担うことで、コミュニケーションを促していましたが、次第に共通の感性が生まれるようになりました。エンジニアたちが医師の言葉をロボットの動きや工学的なパラメーターに変換できるようになったことで、開発のスピードは飛躍的に上がったのです。

hinotori™の名前は手塚治虫さんの漫画『火の鳥』から命名しました。白を基調としたスタイリッシュでコンパクトなフォルムを見た人は、かっこいいですねと褒めてくださいます。日本人は手塚作品を通して昔からロボットに親しみを持っているので、その良いイメージを重ねてくれているのでしょう。

海外の競合製品にはない国産らしい独自性を追求する

hinotori™は4本のアームに内視鏡カメラや手術用器具を取り付け、患者さんに手術を行う「オペレーションユニット」と、執刀医がロボットを操作する「サージョンコックピット」、内視鏡画像を映し出す「ビジョンユニット」で構成されています。基本的な構成は米国の競合製品と同じですが、オペレーションユニットはアームの関節数を増やし、アーム同士の干渉を抑えたコンパクトな動きを実現するなど、オリジナルの機能も搭載しました。「お客様の声を大事にし、反映する」という当社の理念を忘れず、今後も改良を重ね、独自性を高めていくつもりです。また、病院経営に貢献できる価格設定など、お客様の要望に沿える様々なプランを提供していきたいと思っています。

手術支援ロボットは患者さんへの身体的負担を軽減し、早期の社会復帰が叶う利点があります。一方で必要とされるのは操作する医師の高い技術力。現場ではスキルアップのための教育が大きな課題です。これに対しては、今後トレーニングセンターを開設することはもちろん、すでに動き出しているAI・IoTを使ったネットワークサポートシステムが解決へと導いてくれるでしょう。さまざまな医師の手術シーンをデータベース化し、AI解析で最善の技法を導き出してトレーニングプログラムに活かすことを目指しており、名医の手技データを活用したオンライントレーニングの実用化も考えています。ショールームも立ち上がりましたので、多くの方々にhinotori™を体験してもらい、さらに関心を高めていただければ嬉しいですね。

手術支援ロボットの可能性はこれから広がっていく

神戸医療産業都市は、神戸大学医学部附属病院 国際がん医療・研究センターやMeDIP(統合型医療機器研究開発・創出拠点)など、我々の研究開発のパートナーが非常に近い距離にあることに大きなメリットを感じています。今、自動車が変革期を迎えていますが、手術支援ロボットの世界もこれからが本格的な進化の時。一部をオートパイロット化したり、安全を支援するシステムの導入などは当然進むでしょうし、手術と検査が連動して行えたり、術前にVRで検討することも実現可能です。伸び代がまだまだある分野なので、今後新規参入する企業が増え、競争が激化することも予想されます。それも産業を活性化させる意味では良いこと。切磋琢磨し合う中で当社も成長し、hinotori™が神戸のものづくりを発展させる新たな産業の核となることを願います。メイド・イン・ジャパンへの信頼は世界共通。魅力を前面に押し出し、hinotori™は大きく羽ばたきます。

株式会社メディカロイドMedicaroid Corporation

http://www.medicaroid.com/

株式会社メディカロイドは、医療用ロボットを通して「みんな」が安心して暮らせる高齢化社会をサポートするというミッションを掲げ、2013年に神戸医療産業都市に設立されました。身体への負担を軽減する低侵襲治療の進歩と医療用ロボットへの期待の高まりを受け、2015年より内視鏡手術支援ロボットの開発に着手し、5年の開発期間を経て「hinotori™サージカルロボットシステム」を完成しました。

メディカロイドが目指すのは“人の代わりとなる”のではなく、“人に仕え、人を支える”ロボットです。外科領域のみならず、「検査、診断、治療」においてロボットが求められる場所への幅広い製品提供を行い、人々の生活を変えるイノベーションの創出を目指しています。

株式会社メディカロイド

革新的医療機器開発、国際的人材育成を
担う医工連携拠点

公益財団法人 神戸国際医療交流財団

地域の活力を生むための開発や交流を推進

神戸国際医療交流財団は、2009年1月、医療分野における国際医療交流拠点として設立されました。同年12月には兵庫県の認定を受けて公益財団法人となり、「医療分野における人材育成」「国際医療交流」「医療技術・機器の研究開発」に継続して取り組んでいます。医療機器開発は、設立当初よりの最重要事業です。「神戸医療産業都市は震災からの医療を核とした経済再建を主目的として立ち上げられたわけですから、当財団としても“神戸発の医療機器”の開発を柱として考えました。アカデミアから持てるシーズを出してもらい、震災により大きなダメージを受けた地元中小企業をつなぎ、地域の新たな活力を生む。それによって、神戸から全国、さらにアジア、世界を目指そうと活動してきました」と代表理事の後藤章暢氏は振り返ります。

また、医療分野の発展を支える人材育成と国際医療交流も推進。体系的なホスピス・ボランティア教育を行う養成研修講座の開催や、海外からの患者受け入れのコーディネートのほか、カンボジア、ラオス、ベトナムなどの医師や看護師、技師らの研修対応や医療支援、ハワイ大学の研究を支援するなど、医療の進展にグローバルに貢献しています。

神戸発の「メイド・イン・ジャパン」ブランド創出を支援

先進的な医療機器の開発と早期実用化をより強くサポートするために、2018年、同財団は神戸大学とともに、次世代医療機器の研究開発ラボ施設「統合型医療機器研究開発・創出拠点(MeDIP/メディップ)」を神戸医療産業都市に開所しました。日本初の仮想現実(VR)技術で手術室を体感できる「手術室VRショールームシステム」や、手術支援ロボットトレーニング施設、3D(三次元)内視鏡システムを備えた手術室などを整備し、国内外の医師・研究者・企業のみなさまに活用いただいています。メディカロイド社製、国産初の手術支援ロボットとして注目を集める「hinotoriTM」の開発における活用をはじめとし、国内外の企業や大学が技術開発、人材育成の場などとして活用しており、勢いが増しています。

後藤氏は「『hinotoriTM』を一つのスタートとして、医療機器開発を加速させていきたいと考えています」と意欲的です。「さまざまな分野の人が集まりやすく、技術的な調和がとれている神戸医療産業都市ならではのメリットを活かしたさらなる活性化を期待しています。また開発とともに人材育成が非常に重要と考えています。開発品を使う人が育てば需要が増え、患者さんへの先進的な医療の提供や経済活性化にも繋がります」と話します。

神戸医療産業都市の構想段階で様々な計画を立て、実行してきた人達の情熱を受け継ぎ、新たな「メイド・イン・ジャパン」ブランドを創出、発信し、患者さんに最適な医療を提供するために、多様な人と技術を結ぶ体制づくりに力を注いでいきます。

後藤 章暢 氏代表理事

当財団が何をしているところなのか、少しでも知っていただき、興味を持っていただければと思います。私たちは公益財団として皆さんの支援で成り立っているものであり、皆さんのためのものです。さまざまな分野の人々に集まっていただき、「チーム」としてともに医療産業の発展に取り組んでいけるよう、その核になれればと考えています。研究開発と産業、そして市民の皆さんをつなぐべく、引き続き広く活動を続けていきます。