KBICで活躍するトップランナーたち

細谷 亮

神戸市民のためにチームで取り組む質の高い医療

細谷 亮Hosotani Ryo

神戸市立医療センター中央市民病院 院長

神戸市立医療センター中央市民病院は神戸医療産業都市を代表する医療機関です。市民に質の高い医療を安全に提供することに注力し、神戸医療産業都市や地域の医療機関とも連携を図りながら救急医療や高度医療の実践に取り組んでいます。近年は臨床研究の推進にも着手。新薬や医療機器、医療技術の開発にも意欲的に取り組むなど活躍の幅を広げ、医学界からも注目を集めています。今回は2018年より同院長に就任した細谷 亮先生に、現在の取り組みや今後のビジョンなどについてお話をうかがいました。

救急車の受け入れを断らず一人でも多くの命を救う

神戸市立医療センター中央市民病院は、神戸市民の生命と健康を守ることを最大の使命として、質の高い医療を提供しています。当院の大きな特徴の一つは、365日24時間体制の救急医療に取り組んでいること。医師やスタッフがチームワークを発揮し、単なる応急処置にとどまらないハイレベルな救急医療を実践。要請があれば救急患者さんを最大限に受け入れる「断らない救急」を行っています。その結果、救急車の受け入れは年間1万件を超え、かけがえのない多くの命と向き合ってきました。

厚生労働省の平成30年度全国救命救急センター評価において、当院の救命救急センターが5年連続全国1位を獲得できたのは、こうした現場の努力が認められたから。この快挙を誇りに思うと同時に、一層気を引き締めて仕事に取り組まなければいけないと感じています。

最先端の医療機器で難しい手術や治療にも挑戦

当院では質の高い救急医療を継続するため、高度医療にも取り組んでいます。高度手術に対応するクリーンルームや、心臓・脳の血管内治療と手術を同時に行えるハイブリッド手術室を設け、多くの患者さんたちを良好な結果へと導いてきました。また、手術支援ロボット『ダヴィンチ』をはじめとする最新の高度医療機器を導入し、患者さんの体への負担を減らしながら難しい手術にも挑んでいます。

その一方で、日帰り手術をスムーズに進める体制も整えました。心筋梗塞や脳卒中など症状の重い疾患でも入院の必要はなく、外来で内視鏡やカテーテルを使った検査・治療ができるシステムを構築。最新放射線治療機器『リニアック』3台も取り入れ、抗がん剤治療も外来で対応できるようになりました。外来回復室や病状説明室なども設置し、患者さんの安心・安全の確保にも務めています。優秀なスタッフたちの活躍と最新医療機器の整備で、さまざまな高度・先端医療に対応できることが当院の強みです。

私は近い将来、医療用ロボットが医療現場を大きく支えていくだろうと考えています。当院ではさまざまな症例に取り組み、豊富な経験やデータを蓄積しています。神戸医療産業都市には最先端医療機器の開発に取り組むメーカーが数多く参入していますので、今後はこうした企業と積極的に連携を図り、医療機器の発展や実用化に貢献することも、私たちの役割ではないかと思っています。

新たなミッションは医師主導で臨床研究を進めること

当院がより一層発展していくためには、前例のないことにも果敢にチャレンジしていく必要があります。その一つが臨床研究の推進です。2017年に当院が先端医療センター病院を統合する際、「これまで先端医療センター病院で行ってきた臨床研究や治験などの役割を中央市民病院で継承・発展してほしい」と、神戸医療産業都市推進機構名誉理事長の井村裕夫先生から要望がありました。正直なところ、高度医療や断らない救急医療を継続していくだけでも現場は大変です。しかし、神戸アイセンターを開設し、理化学研究所や大阪大病院、京都大iPS細胞研究所CiRAと共にiPS細胞を使った網膜色素上皮移植の臨床研究を進めていくなかで、継続して取り組むことの意義を強く認識し、臨床研究の推進を新たなミッションに掲げました。先端医療センター病院の統合に合わせて立ち上げた臨床研究推進センターでは、医師主導で治験や臨床研究を行い、先端医療をいち早く提供できるよう努めています。

神戸医療産業都市推進機構理事長の本庶佑先生は、2018年ノーベル生理学・医学賞を受賞されたときのインタビューで、「医師が通常業務をこなしながら先端医療開発を進める仕組みができれば、さらに飛躍できる」と述べられました。この言葉はまさに本質であり、私たちへのエール。神戸医療産業都市には有能な研究者が多くいます。神戸医療産業都市推進機構のサポートのもと研究者たちと我々臨床医がタッグを組み、うまく仕組みを構築しながら円滑に臨床研究を進めていきたいと考えています。

有能な医師やスタッフが神戸の明日の医療を支える

当院が2011年に現在の場所に移転した当時、周囲にはまだ何もありませんでした。その後、神戸低侵襲がん医療センター、西記念ポートアイランドリハビリテーション病院ができ、兵庫県立こども病院が移転、神戸大学附属病院国際がん医療・研究センターが開院、昨年末は神戸陽子線センターが開設されるなど、数年でメディカル・クラスターはめざましい進化を遂げています。その中核病院として当院の役割はますます大きくなっていると実感しています。

私の座右の銘は京セラの創業者である稲盛和夫氏の「動機善なりや、私心なかりしか」。院長に就任してからはこの言葉を胸に刻み、正しい動機を持ち、人や仲間のために行動することを第一に仕事に邁進してきました。管理職となり、身にしみて感じるのは人材の大切さ。多くの優秀な医師が汗を流し、1300人を超える看護師たちやコメディカルが活躍してくれるおかげで今日があります。今後もチーム力を強化しながら質の高い救急医療や高度医療、臨床研究の推進に取り組んでいきたいと思います。

神戸市立医療センター 中央市民病院Kobe City Medical Center General Hospital

http://chuo.kcho.jp/

神戸市立医療センター中央市民病院は、768床の病床、30を超える診療科を有する神戸市域の基幹病院です。

1924年に神戸市長田区に開院した「市立神戸診療所」に始まり、1981年から、ポートアイランドに移転しました。2011年に現在の場所に新築移転し、神戸市の基幹病院として、地域住民の生命と健康を守ることを目的に、患者中心の質の高い医療を提供しています。2017年11月には先端医療センター病院を統合、同年12月には眼科機能の集約と拡充を実現するため、神戸市立神戸アイセンター病院が開院しました。

24時間365日、市民の生命と健康を守る「最後の砦」として、地域医療機関との連携を強め、救急医療の充実、高度医療の提供、そして患者にやさしい医療の提供を継続しています。

神戸市立医療センター 中央市民病院

サイエンスの発展をリードする、最先端の研究を推進

神戸大学先端融合研究環

文理の枠を超えた最先端研究

神戸大学先端融合研究環では、文系・理系の枠にとらわれない、先端研究や文理融合の研究が行われています。研究推進のために2011年にポートアイランドに設置された神戸大学先端融合研究環統合研究拠点には、多くの研究者たちが集結し、さまざまなプロジェクトを推進しています。

主な活動は2つあり、1つはスーパーコンピュータ「京」などの計算科学の研究を推進する組織や企業と連携を図ること。もう1つは、バイオテクノロジーを使った医療関連の研究を積極的に進めることです。

バイオテクノロジーによって作られるタンパク質である「バイオ医薬品」は新時代の医薬品として期待されています。同拠点には次世代バイオ医薬品の製造施設があり、国際基準に適合するための高度な製造技術の構築を目指しています。また、2017年には、バイオ医薬品の開発や製造にかかわる人材育成を行う「一般社団法人バイオロジクス研究・トレーニングセンター(BCRET)」を立ち上げ、バイオ医薬品の開発経験がない方を対象にした教育機会の提供などを行っています。

創薬では、スーパーコンピュータ「京」などを活用した「インシリコ創薬」にも取り組んでいます。コンピュータの中で実験を行うことで、医薬品開発の時間やコストを削減することができる新しい創薬手法で、計算機の半導体がシリコンでできていることから「インシリコ(in silico)」と呼ばれています。

これらも含めて、現在活動している統合研究拠点のプロジェクトは11あり、いずれも世界水準の研究として注目を集めています。

次世代のリーダー育成を目指して

先端研究を進める一方で、次世代の研究開発を担う人材の育成にも注力しています。2014年に棟内に設置した神戸大学計算科学教育センターでは、『計算生命科学の基礎』という講義を定期的に開催。DNAに記憶されたゲノム情報、タンパク質の配列・構造情報などのビッグデータを用いて、高度な計算機シミュレーションの技術を駆使する計算生命科学の基礎や最先端の研究の現状について、企業の研究者や大学生などに学びを深めてもらいたいという思いから始まりました。「ビッグデータや人工知能など最新トピックスに関する情報が満載で興味深いと毎回好評を得ています。インターネットを介して誰でも無料で受講することができるので、興味のある人はぜひ参加を」と呼びかけるのは、副研究環長統合研究拠点長の横川三津夫氏。講義は第一線で活躍するプロフェッショナルたちが担当しています。

拠点内にはコンベンションホールもあり、主要な国際会議やシンポジウムが開催され、都市の活性化にも貢献しています。神戸大学先端融合研究環は今後もサイエンスクラスターの中核機関としての役割を果たしながら、産業界とタッグを組んだ新しいプロジェクトの創出にも取り組んでいく方針です。

横川 三津夫 氏副研究環長(統合研究領域)

社会のさまざまな問題や課題に産・官・学連携で取り組み、先端融合研究が発展することで神戸医療産業都市構想が一層広がると考えています。スーパーコンピュータ「京」を活用する技術の研究に長く尽力してきた私としては、後続機である「富岳」の製造が開始となったことを弾みに新たな発見に務め、都市の発展に寄与したいと思っています。

オープンイノベーションで再生医療の実用化を加速

株式会社 日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ
日立神戸ラボ

神戸医療産業都市の地の利を活用

日立製作所は「社会イノベーション事業でのグローバルリーダー」を目指し、さまざまな事業を展開しています。その取り組みの一環として、東京大学・京都大学・北海道大学内に大学との共同研究のためのラボを2016年に設置し、社外交流を図りながら研究を進めています。2017年には、神戸医療産業都市内に新たな研究拠点として「日立神戸ラボ」を開設しました。

「神戸医療産業都市にラボを構えたのは、顧客やパートナーと共に細胞自動培養技術の臨床応用に向けた検証を実施し、実用化を加速させるため。医療バイオ関連の企業や研究機関、高度専門病院などが数多く集積し、産・官・学・医が連携して最先端の高度医療に取り組む神戸医療産業都市は、私たちにとって魅力的な場所です」と話すのは、日立神戸ラボ長の武田志津氏。地の利を活かし、日々研究開発に取り組まれています。

日立神戸ラボのミッションはまず、再生医療分野での研究を深め、追求していくことにあります。特に注力しているのが、再生医療を普及させるための細胞自動培養技術の研究です。iPS細胞の培養をオートメーション化し、安定した品質の細胞を安全に量産化すべく、武田氏が中心となり、神戸に拠点を移す以前の2002年より取り組んできました。

質の高い医療用細胞製造への挑戦

再生医療に用いる細胞は高いクオリティが求められるのにもかかわらず、一定の品質で製造するのが難しいという課題を抱えていました。大きな障害となっていたのが菌の混入です。従来は人が手作業で培養したり、ロボットアームで作業が行われていたために、細心の注意を払っても人体や空気中に存在する菌が混入してしまう危険がありました。また、再生医療の普及のためには細胞を大量に培養できる技術が必要です。しかし、製造を熟練技術者の手技に頼らざるを得ないため、安定した品質が保てず、大量生産ができないというデメリットもありました。

そこで武田氏らは、課題解決に向けた研究開発に着手。同じく神戸医療産業都市内に研究施設を持つ大日本住友製薬や京都大学と共同研究を推進し、15年の歳月をかけ独自の技術を構築。最小の完全無菌空間で高品質の細胞を自動で培養する「完全閉鎖系小型自動培養装置」を開発することに成功しました。この技術をさらに発展させ、10億個の細胞を自動で培養する大規模自動培養装置も実現。品質の安定化と大量生産ができるようになり、細胞培養にかかる時間と費用を大幅に節減することが可能になりました。

長年の努力を実らせ、今春、iPS細胞を大量に自動培養する装置『iACE2(アイエースツー)』を製品化。将来的に社会実装が進めば、iPS細胞を使った治療法が飛躍的に進歩すると期待されています。

再生医療を実用化するためには、細胞培養技術だけでなく、高い再生医療技術を持った医師の育成や病院等の設備の充実など、様々な課題があります。日立神戸ラボでは、日立製作所の創業の精神である「開拓者精神」を胸に、今後も神戸医療産業都市を拠点としたオープンイノベーションを推進し、誰もが平等に再生医療を受けられる社会の実現に向けて研究開発のスピードを加速させていきます。

武田 志津 氏日立神戸ラボ長

埼玉県の基礎研究センタから神戸医療産業都市に研究拠点を移したことで、パートナー企業である大日本住友製薬の研究施設が近くなり、自動培養試験がスムーズに行えるようになったことが製品化を後押ししてくれました。神戸医療産業都市は医療研究者が多く刺激的な環境。社外との交流を深め連携しながら、より一層社会貢献活動に取り組んでいきます。