サイエンスの発展をリードする、最先端の研究を推進
神戸大学先端融合研究環
文理の枠を超えた最先端研究
神戸大学先端融合研究環では、文系・理系の枠にとらわれない、先端研究や文理融合の研究が行われています。研究推進のために2011年にポートアイランドに設置された神戸大学先端融合研究環統合研究拠点には、多くの研究者たちが集結し、さまざまなプロジェクトを推進しています。
主な活動は2つあり、1つはスーパーコンピュータ「京」などの計算科学の研究を推進する組織や企業と連携を図ること。もう1つは、バイオテクノロジーを使った医療関連の研究を積極的に進めることです。
バイオテクノロジーによって作られるタンパク質である「バイオ医薬品」は新時代の医薬品として期待されています。同拠点には次世代バイオ医薬品の製造施設があり、国際基準に適合するための高度な製造技術の構築を目指しています。また、2017年には、バイオ医薬品の開発や製造にかかわる人材育成を行う「一般社団法人バイオロジクス研究・トレーニングセンター(BCRET)」を立ち上げ、バイオ医薬品の開発経験がない方を対象にした教育機会の提供などを行っています。
創薬では、スーパーコンピュータ「京」などを活用した「インシリコ創薬」にも取り組んでいます。コンピュータの中で実験を行うことで、医薬品開発の時間やコストを削減することができる新しい創薬手法で、計算機の半導体がシリコンでできていることから「インシリコ(in silico)」と呼ばれています。
これらも含めて、現在活動している統合研究拠点のプロジェクトは11あり、いずれも世界水準の研究として注目を集めています。
次世代のリーダー育成を目指して
先端研究を進める一方で、次世代の研究開発を担う人材の育成にも注力しています。2014年に棟内に設置した神戸大学計算科学教育センターでは、『計算生命科学の基礎』という講義を定期的に開催。DNAに記憶されたゲノム情報、タンパク質の配列・構造情報などのビッグデータを用いて、高度な計算機シミュレーションの技術を駆使する計算生命科学の基礎や最先端の研究の現状について、企業の研究者や大学生などに学びを深めてもらいたいという思いから始まりました。「ビッグデータや人工知能など最新トピックスに関する情報が満載で興味深いと毎回好評を得ています。インターネットを介して誰でも無料で受講することができるので、興味のある人はぜひ参加を」と呼びかけるのは、副研究環長統合研究拠点長の横川三津夫氏。講義は第一線で活躍するプロフェッショナルたちが担当しています。
拠点内にはコンベンションホールもあり、主要な国際会議やシンポジウムが開催され、都市の活性化にも貢献しています。神戸大学先端融合研究環は今後もサイエンスクラスターの中核機関としての役割を果たしながら、産業界とタッグを組んだ新しいプロジェクトの創出にも取り組んでいく方針です。
社会のさまざまな問題や課題に産・官・学連携で取り組み、先端融合研究が発展することで神戸医療産業都市構想が一層広がると考えています。スーパーコンピュータ「京」を活用する技術の研究に長く尽力してきた私としては、後続機である「富岳」の製造が開始となったことを弾みに新たな発見に務め、都市の発展に寄与したいと思っています。
オープンイノベーションで再生医療の実用化を加速
株式会社 日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ
日立神戸ラボ
神戸医療産業都市の地の利を活用
日立製作所は「社会イノベーション事業でのグローバルリーダー」を目指し、さまざまな事業を展開しています。その取り組みの一環として、東京大学・京都大学・北海道大学内に大学との共同研究のためのラボを2016年に設置し、社外交流を図りながら研究を進めています。2017年には、神戸医療産業都市内に新たな研究拠点として「日立神戸ラボ」を開設しました。
「神戸医療産業都市にラボを構えたのは、顧客やパートナーと共に細胞自動培養技術の臨床応用に向けた検証を実施し、実用化を加速させるため。医療バイオ関連の企業や研究機関、高度専門病院などが数多く集積し、産・官・学・医が連携して最先端の高度医療に取り組む神戸医療産業都市は、私たちにとって魅力的な場所です」と話すのは、日立神戸ラボ長の武田志津氏。地の利を活かし、日々研究開発に取り組まれています。
日立神戸ラボのミッションはまず、再生医療分野での研究を深め、追求していくことにあります。特に注力しているのが、再生医療を普及させるための細胞自動培養技術の研究です。iPS細胞の培養をオートメーション化し、安定した品質の細胞を安全に量産化すべく、武田氏が中心となり、神戸に拠点を移す以前の2002年より取り組んできました。
質の高い医療用細胞製造への挑戦
再生医療に用いる細胞は高いクオリティが求められるのにもかかわらず、一定の品質で製造するのが難しいという課題を抱えていました。大きな障害となっていたのが菌の混入です。従来は人が手作業で培養したり、ロボットアームで作業が行われていたために、細心の注意を払っても人体や空気中に存在する菌が混入してしまう危険がありました。また、再生医療の普及のためには細胞を大量に培養できる技術が必要です。しかし、製造を熟練技術者の手技に頼らざるを得ないため、安定した品質が保てず、大量生産ができないというデメリットもありました。
そこで武田氏らは、課題解決に向けた研究開発に着手。同じく神戸医療産業都市内に研究施設を持つ大日本住友製薬や京都大学と共同研究を推進し、15年の歳月をかけ独自の技術を構築。最小の完全無菌空間で高品質の細胞を自動で培養する「完全閉鎖系小型自動培養装置」を開発することに成功しました。この技術をさらに発展させ、10億個の細胞を自動で培養する大規模自動培養装置も実現。品質の安定化と大量生産ができるようになり、細胞培養にかかる時間と費用を大幅に節減することが可能になりました。
長年の努力を実らせ、今春、iPS細胞を大量に自動培養する装置『iACE2(アイエースツー)』を製品化。将来的に社会実装が進めば、iPS細胞を使った治療法が飛躍的に進歩すると期待されています。
再生医療を実用化するためには、細胞培養技術だけでなく、高い再生医療技術を持った医師の育成や病院等の設備の充実など、様々な課題があります。日立神戸ラボでは、日立製作所の創業の精神である「開拓者精神」を胸に、今後も神戸医療産業都市を拠点としたオープンイノベーションを推進し、誰もが平等に再生医療を受けられる社会の実現に向けて研究開発のスピードを加速させていきます。
埼玉県の基礎研究センタから神戸医療産業都市に研究拠点を移したことで、パートナー企業である大日本住友製薬の研究施設が近くなり、自動培養試験がスムーズに行えるようになったことが製品化を後押ししてくれました。神戸医療産業都市は医療研究者が多く刺激的な環境。社外との交流を深め連携しながら、より一層社会貢献活動に取り組んでいきます。