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ハイケ プリンツ

“コラボレーション”が鍵となる新技術の研究開発

ハイケ プリンツHeike Prinz

バイエル薬品株式会社 代表取締役社長

バイエルはライフサイエンスを強みとする世界有数のイノベーション企業です。約110年前に神戸に支社を開設した、神戸に縁のある企業でもあります。社会に根ざした活動を展開し、医薬品の新技術の研究開発を積極的に推進しています。2018年6月には、アジア初のインキュベーションラボ「CoLaborator Kobe(コラボレーター神戸)」を神戸医療産業都市に設立。今回はバイエル薬品株式会社代表取締役社長ハイケ プリンツ氏に、お話をうかがいました。

人々の生活を変える科学の力は多くの可能性に満ちている

私が製薬分野に興味を持ったきっかけは、従兄がリンパ腫と診断されたことです。彼は結婚し新しい生活を始めたばかりでした。治療を受けてよくなりましたが、その過程を見るうちに医薬品が人々の生活に大きな影響を与えることに気づき、この業界で働く事を決めました。

50年以上前、医療用医薬品は製薬会社の研究所で開発されていましたが、現在、医療用医薬品の多くは、新しいビジネスの開拓を目指して起業したスタートアップ企業と呼ばれる新進気鋭の企業とアカデミア(学術研究機関)、製薬企業が協力して開発されています。創薬の方法はこれまでとは大きく変わりつつあります。バイエルは製薬会社として最先端技術を開発する研究者をオープンに支援し、協力していきたいと考えています。

神戸医療産業都市とバイエルの理念、コンセプトが合致

バイエルは、社外とのコラボレーションを通じて、社内や自社の研究所にはないイノベーションにアプローチしたいと思っています。そのための環境整備(エコシステム※の構築)がされると、多くのイノベーションを創出できるという信念のもと2018年6月にバイエルの理念と合致した神戸医療産業都市に「CoLaborator Kobe(コラボレーター神戸)」というインキュベーションラボを開設しました。すでに複数のスタートアップが利用しています。日本には、エコシステム構築のための良い環境があると思いますが、まだやるべきことがたくさんあります。より良いエコシステムを構築することで、日本でビジネスをしようとする企業家も増えるのではないでしょうか。ドイツではより良いエコシステムや資金調達を求め米国に進出した例を見てきました。ボストン等の世界トップのエコシステムのモデル地域には、先端の研究施設、大学、医療機関がそろっており、たくさんのイノベーションが生まれています。同様に環境が充実している神戸が、エコシステムを充実させていけば、アジアだけでなく世界の重要な医療産業都市になれると思っています。
※ エコシステム:起業家、投資家、アドバイザー、行政支援の輪

スタートアップを支援し、新しい医療技術をうみ出す

バイエルには “Leaps by Bayer”というユニークなアプローチもあります。パートナー企業と共同で新会社を設立し、イノベーション創出のための投資を行う仕組みです。最近では、富士フイルム、 Versant Venturesと共同でCentury Therapeuticsに投資しました。Century Therapeuticsの基盤技術は、日本が最先端の技術を有するiPS細胞を用いています。今後日本市場向けだけでなく、世界に革新をもたらすような医薬品が開発されるでしょう。

“Leaps by Bayer”は、すでに多数のスタートアップに投資してきました。将来の医療を完全に変えてしまう技術が次々に開発されることを大いに期待しています。

日本の医療技術を育み、世界に発信

日本で起業する場合、直面する大きな問題が2つあります。まず、1つ目は「資金面でのサポート」です。スタートアップは、最初は小さく始めますが、すぐに資本が必要な段階になることが多いのです。早期の投資への理解が得られない場合、融資を得るのはかなり難しいでしょう。

次に「国際的なつながり」です。日本のスタートアップは欧米よりもこの点に困っている人が多いと感じます。最先端の技術があれば、それを日本国内だけに留めることなく、世界中の研究者と協力すべきです。私たちは世界各国にいるバイエルの研究者を通じて、研究者同士をつなぐことができます。様々な国の研究者と協力し、議論することで、日本だけでなく世界中の患者さんのための開発を加速できます。

また、日本には世界に知られていないすばらしい技術が沢山あります。そういった素晴らしい日本の技術を世界に周知していくのも、私たちの役目だと考えています。

20年も前に医療産業都市の構想を作った神戸は先見の明があったと思います。エコシステムの構築はひとつの企業や自治体では無理ですが、新しいアイデアをもたらすアカデミア、創薬を担う企業、資本を提供する投資家、インフラを支援する自治体の輪の構築で加速できます。エコシステムをさらに充実させることによって、神戸医療産業都市はイノベーションの創出においてより重要な役割を果たせると思います。

バイエル薬品株式会社Bayer Yakuhin, Ltd.

https://byl.bayer.co.jp/

バイエルはドイツで創業して150年以上、日本のバイエルも創業以来100年を超える歴史があります。その間、数多くの革新的な治療薬や診断薬を開発し、イノベーションへの投資を続けてきました。特に日本はバイエルにとって重要な市場と位置付けられ、研究開発の成果を日本の医療現場にできる限り早く届ける取り組みが続けられています。患者さんとそのご家族の「満たされない願い」に応えるため、革新的な新薬をいち早くお届けすることを使命とし、医薬品の開発を通じて人々のクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献しています。

バイエルと神戸市、神戸医療産業都市推進機構は、相互に連携を図り、ライフサイエンス分野を対象としたベンチャー企業の発掘・育成及びベンチャーエコシステムの構築に向けた協力体制を構築するため、2019年2月に「神戸医療産業都市におけるベンチャー企業の育成・支援等に関する連携協定」を締結しました。

バイエル薬品株式会社

高精度放射線治療を柱に「切らずに治す」
がん治療を提供

神戸低侵襲(ていしんしゅう)がん医療センター

放射線治療を最大限に生かす

近年の医療では患者さんのQOL(Quality of Life=生活の質)を重要視し、身体への影響をできる限り減らす低侵襲医療が広がりつつあります。神戸低侵襲がん医療センター(KMCC)は2013年4月に開院し、「小さく見つけてやさしく治す」を基本理念に掲げ、さまざまな最先端治療による「切らずに治す」がん治療を提供しています。血液がん以外、ほぼ全身のがんを対象としており、高精度の放射線治療を軸に、化学放射線療法(抗がん剤治療+放射線治療)、免疫療法、IVR(カテーテル治療)、内視鏡治療などの治療方法を用いています。

特に中心となる放射線治療は、麻酔の必要もなく、患者さんの負担が非常に少ない治療法です。当院では3つの最新放射線治療装置を国内でも早期に導入し、熟練の放射線科専門医が、患者さん一人一人のがんの病状に応じて装置を選択し治療にあたります。

3つの放射線治療装置は、いずれも腫瘍に対して多方向から集中するように放射線を照射します。正確に照射するため呼吸に伴う腫瘍の動きを追尾することが出来る定位放射線治療専用装置や、360度全方向から腫瘍に照射して腫瘍の形に合わせた照射が可能な強度変調放射線治療(IMRT)専用装置、広範囲を短時間で照射出来る装置など、それぞれ特徴が異なります。これらの装置を用いた放射線治療によって、治療回数の削減や、副作用の発生頻度や程度を軽減することが可能になるなど、患者さんのQOL向上につながります。

根治照射から再発予防のための照射、そして症状緩和のための照射に至るまで、さまざまなステージのがんで放射線治療の利点を最大限に生かしながら、化学療法や免疫療法などとも併せて、高い治癒率を目指しています。

最適な治療を患者さんに提供する

患者さんは兵庫県内を中心に、がん診療拠点病院をはじめとする病院からの紹介がほとんどを占めますが、紹介状がなくても受診できます。まず地域連携室に電話かFAXによる予約を行っていただき、受診され医師の診察後には、速やかに必要なCT、MRI、PET-CT、消化管内視鏡検査、気管支鏡検査など必要な検査を受けていただきます。各結果は検査当日に説明されるので、短期間で治療へと進めます。診断の結果、手術が最適な治療法である場合は適切な病院へ紹介するなど、誰もが安心して治療に向き合えるようサポートします。

神戸医療産業都市内の神戸市立医療センター中央市民病院、神戸大学医学部附属病院国際がん医療・研究センター(ICCRC)、神戸陽子線センターなど多くの医療機関と連携し、求められる最高水準のがん治療の実践を目指しています。また、前立腺がんに対する定位放射線治療のような新しい放射線治療や臨床研究にも積極的に取り組んでいます。今後も人材、設備ともに充実させ、低侵襲がん治療の専門性をより高めることに注力していきます。

藤井 正彦 氏理事長・病院長

日本のがん治療をとりまく環境は大きく変化しております。当院は患者さんの心身の負担を軽減させ、近年飛躍的に進歩した切らずに治すがん治療をさらに発展させていきたいと考えています。がんには、手術の他にもさまざまな治療方法があることを知っていただき、ご相談に来ていただければと思います。

100歳現役社会の実現に向け、
医療研究の“種”を“実”に

医療イノベーション 推進センター(TRI)

専門家たちが臨床研究を支援

新しい医療を市民の方に届けるためには、基礎研究から臨床への応用まで、いくつかのプロセスを経て、有効性と安全性を確立しなくてはなりません。

「医療イノベーション推進センター(TRI)」は、臨床研究のためのデータ・解析センターとして、医療分野で未解決の課題に対する研究の種や芽に光を当て、一日も早く臨床現場で提供できるよう相談や支援を行っています。設立15周年を迎えた2018年、さらなる飛躍を目指し、臨床研究情報センターから名称を変更しました。新組織は新規医療製品や医療技術の開発業務を担当する「メディカルイノベーションディビジョン」と、研究に必要なデータの収集・解析・構築、治験関連業務などを行う「ヘルスデータサイエンスディビジョン」で構成。研究指導医や生物統計家などの専門家たちがチームを結成し、開発戦略から臨床研究の立ち上げ、研究の推進、産業化をサポートしています。国内外の関係機関と連携しながら、これまでがんや循環器疾患、再生医療など幅広い分野で実績を上げてきました。

難治性疾患の治療普及を目指す

TRIがさまざまな研究支援を行う中で、注力している一つが再生医療開発です。実用化に向けて有効性や安全性を確かめる医師主導治験を数多くバックアップ。研究費の獲得やデータマネジメント、規制当局への書類作成、承認申請支援、開発企業への橋渡しなど多岐にわたる業務を担当しています。きめ細やかな支援が結実し、すでに保険医療として実現したもの、また、実現間近な医療技術もあります。既に実現した例として、脊髄損傷による手足の麻痺を改善する神経再生、聞こえを取り戻す鼓膜再生があり、実現間近な例として、骨折の治癒を早める骨再生、膝軟骨の傷を修復する軟骨再生、下肢切断を回避する足の血管再生などがあります。いずれも難治性疾患にアプローチする画期的な治療法と期待されています。「我々が支援してきたプロジェクトの中には、厚生労働省から有望な開発案件にのみ与えられる先駆け審査指定に選出され、より迅速に承認申請までこぎつけた例も少なくありません。プロジェクトごとに異なる課題に柔軟に対応できるのは、長年培ってきたノウハウや経験が活きているからこそ」と自信をのぞかせるのは、同メディカルイノベーションディビジョン事業統括の川本篤彦氏です。神戸から新しい医療技術が生まれていることを市民にわかりやすく説明する場として、市民公開講座も無料で開催しています。

また、がんやアルツハイマー病、希少難病の特徴や診断・治療について理解を深めてもらうため、最新の疾患情報を届けるウェブサイトも運営。信頼性の高い海外のサイトをピックアップし日本語で紹介しています。世界最大・最新のがん情報『PDQ®︎』の日本語版である『がん情報サイト』や希少・難治性疾患の世界最大の情報サイト『Orphanet』の日本支部『オーファネットジャパン』は、患者やその家族、医療専門家などから高い評価を得ています。

TRIはこれからも新しい医療の開発を通じて国民・市民の福祉に貢献していきます。

川本 篤彦 氏メディカルイノベーションディビジョン 事業統括

TRIでは健康長寿の実現を目指して、さまざまな病気の治療開発を継続しています。再生医療をはじめとした先端的な医療が市民の皆様の元に一日でも早く届くことを願い、今後も当センターの事業を展開していきます。また、私たちが活動を行っていくためには市民の皆様のご理解が必要です。ホームページ等でご寄付のお願いもしておりますので、より一層のご支援をお願いいたします。
HPはこちら▶︎https://www.tri-kobe.org/