KBICで活躍するトップランナーたち

飯島 一誠

最先端医療で守る子どもたちの未来

飯島 一誠Iijima Kazumoto

兵庫県立こども病院 院長

須磨からポートアイランドへ移転して6年。兵庫県立こども病院は小児医療の最後の砦として、24時間365日、子どもたちの命と健やかな成長を支えています。自然をイメージしデザインされた院内にはパステルカラーが施され、子どもたちもリラックス。エントランスのガラス窓からは優しい光が差し込み、ここが病院であることを忘れてしまうほど穏やかな時が流れています。今春、新たに飯島一誠院長を迎え、さらなる飛躍が期待されている同院。飯島院長に小児科医としての歩みや、小児医療に寄せる思いなどをうかがいました。

診療と研究を両立できる環境は県立病院にも必要な時代

今年4月に院長に就任し、ようやく環境にも慣れてきました。昨年までは神戸大学大学院医学研究科小児科学分野の教授を務め、慌ただしい日々を過ごしてきましたが、こちらに移ってからは考える時間を持てるようになりました。次々に湧き出てくるアイデアを、どう実現させようか思い巡らせているところです。

当院で働き始めてからは、大学病院との“文化”の違いを感じています。大学病院の業務は教育、研究、診療ですが、県立病院では診療が主体。もちろん、県立病院が果たすべき重要な役割ですが、もう診療だけを行う時代ではありません。臨床医も積極的に研究に取り組まなければ、良い医療は提供できないでしょう。私自身も小児腎臓の研究を長く続けています。今後は臨床と研究をワンセットで考え、研究支援体制を整えていくつもりです。

「小児科の先生はすごい!」幼少期の感動から医師の道へ

私が生まれ育ったのは大阪です。母親の実家が黒門市場でふぐの卸業を営んでいたので、幼い時からふぐをたらふく食べさせてもらいました。医師を夢見たのは小学生の時です。子どものころは体が弱く、熱を出すたびに小児科へ連れて行かれました。すると、決まって調子が良くなることに感動して、小学2年生の作文に「医者になりたい」と書きました。憧れがはっきりとした目標に変わったのは中学1年生の時。日本初の心臓移植手術のことをニュースで知り、医療の力に驚いて、将来は自分も医師になろうと心に決めました。

小児科医を選んだのは、幼いころの体験に加え、学生時代に子ども好きを実感する場面がたびたびあったことが大きかったと思います。友達の子どもが自分にだけすごく懐いてくれたり、街で子どもを見かけた時に自然と笑顔になっている自分に気づいたり、無条件にかわいいと思えたり。それに子どもは社会の宝とも言うでしょう。子どもを大事にできない社会は絶対に発展しないと常々思っていたこともあって、迷いなく小児科医の道へ進むことができました。

学生時代は心臓を専門分野にしたいと考えていたのですが、恩師の先生が小児腎臓学をご専門にされていたことから、私も導かれました。2002年から6年間在籍した国立成育医療研究センターでは、腎臓科医長として臨床研究にも注力し、難治性疾患の子どもたちを救う新しい治療の発展に貢献しました。

小児科医の仕事は難しいからこそ、やりがいがある

兵庫県立こども病院は、妊娠期からお母さんと赤ちゃんを支え、小児のあらゆる病気に対応する、周産期医療と小児医療のデパートのような病院です。なかでも小児集中治療室(PICU)は14床を有し、西日本最大の規模を誇ります。また、小児がん医療センターを持つ当院は小児がん拠点病院でもあり、血液腫瘍の症例数は日本トップクラス。隣接する神戸陽子線センターと連携しながら高度医療を推進しています。循環器疾患の最先端治療に取り組む小児心臓センターも備え、常に新しいエビデンスをキャッチアップしながら、最新かつ最良の医療を提供できるよう努力を重ねています。

子どもは大人のミニチュアではなく、治療のプロセスに必ず発達が関わってきます。新生児と10歳の子どもでは、治療に必要な知識や技術が異なるのは当然のこと。幅広い知識と卓越した診療技術を兼ね備えた上で、親御さんとしっかりとした信頼関係を結べなければ、小児科医は務まりません。小児科は多くのスキルを必要とする非常に難しい診療科ですが、だからこそやりがいもあります。

地の利を活かし予防法や治療法を開発したい

神戸医療産業都市は、日本が誇る研究機関や医療機関、医療関係企業がたくさん集積しています。皆で情報を共有しながら同じ方向を向いて歩めば、きっと良い仕事ができるでしょう。当院の医師たちは、多様な疾患を抱えた子どもたちと毎日向き合っています。臨床の最前線にいるからこそ見えてくるさまざまな問題点や課題を拾い上げ、製薬メーカーや研究機関などと協働して予防法や治療法に結び付けることができれば理想的ですね。いつか当院が先頭に立って、新たな治療を開発していくことが私の夢です。

近年の医学の進歩は非常に目覚ましいものがあります。小児の希少疾患も原因の解明が進み、有効な治療法がどんどん開発されるようになりました。先進医療が進むと救える命が増え、障害とともに生きる子どもたちが増えていきます。そうした継続的なケアが必要な子どもや家族を支援する機能を院内に持つことも重要であり、地域の協力を得ながら実現させたい課題の一つです。

神戸市民の皆さんには、子どもたちの未来に希望を持っていただき、病院ボランティアや寄付などで支えてください。また、小児疾患で苦しむ子どもたちや親御さんは、どんな時もけっしてあきらめることなく、積極的に当院を利用してください。我々が全力で対応します。

兵庫県立こども病院Hyogo Prefectural Kobe Children's Hospital

http://www.hyogo-kodomo-hosp.com/

兵庫県立こども病院は、1970年に兵庫県政100周年を記念して須磨の地に開設され、2016年5月に、さらなる発展を期して、多くの医療機関が集積する神戸医療産業都市の中核施設としてポートアイランドに移転しました。

総合周産期母子医療センター、小児救命救急センター、小児がん医療センター、小児心臓センターなどを中心に、こどもとご家族を支える“最後の砦”として、24時間体制の診療を行っております。

急性期の高度な集学的治療を行うと同時に、長期にわたり疾患とともに生活していくこどもたちとご家族に対する支援と癒しの場としての機能も併せ持つように、集中治療機能の強化、救急医療体制の整備、在宅療養移行支援病棟や地域連携部門の充実に取り組んでいます。

兵庫県立こども病院

産学連携で社会貢献につながる研究を支援する

神戸学院大学研究支援センター

研究に打ち込める環境を整備

神戸市内の私立大学では最大規模である約1万1000人の学生を擁する神戸学院大学は、1966年に創立。56年目を迎えた現在では複数のキャンパスに10学部・8大学院研究科を配置しています。2007年に開設されたポートアイランドキャンパスは、レンガ造りの学舎と手入れの行き届いた天然芝が織りなす空間美が魅力で、薬学部、法学部、経営学部、現代社会学部、グローバル・コミュニケーション学部の学生が豊かなキャンパスライフを送っています。

学内組織の一つである研究支援センターは、教員の研究活動に関する事務サポートを行っています。研究資金獲得のための書類整備や科学研究費助成事業の申請、学外共同研究や受託研究、知的財産、職務発明に関する支援業務などを担当。教員が研究そのものに専念できるようサポーター役として活動しています。

文理10学部を擁する同大学では、各教員が個々の研究テーマを多面的に展開しているのが特徴です。百貨店や企業と新商品の研究開発などに取り組み、産学連携を積極的に推進してきました。また、文部科学省・学術フロンティア推進事業の実行を目的として2006年に発足した「ライフサイエンス産学連携研究センター」、筋ジストロフィーの治療法開発などを進める「ロコモーションバイオロジー教育研究センター」、大学と地域の共生を研究テーマの主題にする「地域研究センター」の3つの研究機関を設立。時には学生も参画し、Research-based educationを実践しながら、さまざまな課題解決に向けて研鑽を積んでいます。

研究のシーズを社会実装へ

「研究は出口を見据えて行うことが大事」と力強く語るのは、研究支援センター所長の市川秀喜教授です。「ひと昔前までは、企業とのコラボレーションはアカデミアのすることではないという風潮がありましたが、今となっては時代錯誤。研究のシーズがうまく社会実装につながれば社会貢献になり、教員が基礎研究を続けるモチベーションにもなります。研究成果をどれだけ市民にフィードバックできるかが、大学に求められている大きな役割です」

国内屈指の大規模メディカルクラスターを形成し、医療関連以外の企業も多数集積する神戸医療産業都市。同大学はこの唯一無二と言える地の利を活かし、進出企業などと連携を図りながら、研究の活性化を目指します。「薬学研究科は、理化学研究所や神戸市立医療センター中央市民病院と連携協定を結び、人材育成や研究推進においてすでに密接な協力関係にあります。今後は進出企業の事業内容にも視野を広げ、本学が抱える多様な研究テーマと結び付けて、社会に還元できる息の長い研究や産学連携プロジェクトを進めていけたらと思っています」

また、近年注目が高まっているリカレント教育も、同大学が力を入れて取り組んでいきたいテーマの一つ。社会人ドクターを受け入れた経験を踏まえ、学び直したい人や研究の実践力を高めたい人の受け皿になれるよう環境整備の検討を進めています。

市川 秀喜 氏研究支援センター所長 薬学部教授

本学は地域活動を通じて市民の皆様に助けていただき、今日まで成長を続けることができました。そのご恩を私たちは何かの形でお返ししたいと思っています。キャンパスは学生のみならず、市民に対しても門戸が開かれています。大人になって新たに学びたいことや究めてみたいことがあればお手伝いさせていただきますので、いつでも気軽にご来校ください。

樹脂のプロフェッショナルとして医療の発展に尽くす

八十島プロシード株式会社

樹脂切削加工技術を医療へ応用

八十島プロシードは創業以来、大阪を基盤に樹脂(プラスチック)切削加工技術を磨き、約85年にわたって日本のものづくりを支えてきました。優れた技術力が電子部品業界や半導体業界などで認められたことを弾みに、医療業界へ進出。2007年には医療機器分野に特化した専門拠点「Next MED開発室(現メディカル事業部)」をポートアイランドに設立しました。

同社がいち早く用途開発に乗り出したのが高機能性樹脂素材です。安全性や耐久性などに優れた材料を医療分野にも応用し、人工関節など手術に用いられる体内留置(インプラント)製品を製造。医療機器メーカーとの共同開発で、金属製が主流だった領域に新風を起こし、市場を拡大しました。

また2011年には、業界に先駆け樹脂3Dプリンターを導入。最先端の3Dテクノロジーを駆使し、実物に近い質感を持つプラスチック製の臓器モデルが生まれました。現在では手術トレーニングに使われるなど、医療技術の向上に貢献しています。

神戸医療産業都市推進機構の支援を力に

2020年6月には、大阪にあった本社をポートアイランドに移設し、3つの部署を開設しました。33台の樹脂3Dプリンターを設置し、次世代のデジタルものづくりを推進する「神戸Fab」、ソフトウェアを使って3次元モデルを製作する「本部テクノロジーセンター」、3Dプリント品の試験を行う「AM検証センター」が連携し、より幅広いニーズに対応しています。

医療知識に精通した社員が1人もいない中で立ち上がった医療部門。当初は人脈もなく、暗中模索の日々だったと専務取締役 河野浩之氏は振り返ります。「日本各地で行われる医療系の学会に足しげく通いながら、少しずつ知識を積み重ね、地道に人脈を広げていきました。そんな我々を力強く支援してくださったのが、神戸医療産業都市推進機構(旧 先端医療振興財団)です。医療機器の開発に必要なノウハウを教わり、新工場を建設する際にはアドバイスもいただきました。当社が今日まで事業を着実に成長させることができたのは、神戸医療産業都市推進機構のサポートがあったからこそと感謝しています」

今回、満を持して神戸医療産業都市に本社を移したことは、事業拡大の大きな足がかりになると確信している河野氏。「神戸医療産業都市はメディカルクラスターとして成功していると言われています。そこに本社を置くこと自体が当社にとって大きなメリット。医療分野に注力している会社であることを、広く明確にアピールできます。取引先の人たちが喜んで神戸本社に足を運んでくださるのは、飛行機や新幹線のアクセスが良好なうえ、街のイメージも良いからでしょう。こうした地域の強みを、もっと事業に反映させていきたいと思います」

今後はより一層、自社製品の開発・製造に力を注いでいきたいと気を引き締める同社。経験の中で培われた確かな実績とデータベースを武器に、世界のトップを目指して前進を続けます。

河野 浩之 氏専務取締役

神戸に誕生した新工場には、日本最大級の樹脂3Dプリンターが完備され、世界から注目されるトップレベルのデジタル技術があります。当社は医療という新たなフィールドでさらに努力を重ね、神戸市民のみなさんの健康をより維持できる製品を世の中に送り出していきたいと考えています。これからの私たちの活躍にぜひ期待してください。

神戸女子大学大学院