KBICで活躍するトップランナーたち

礒脇 明治

神戸発の新たな医薬品をいち早く患者さんの元へ

礒脇 明治Isowaki Akiharu

千寿製薬株式会社 研究開発本部 総合研究所 所長

眼科のスペシャリティーファーマとして、眼疾患治療の課題解決に向けた製品やサービスを提供している千寿製薬。2019年より神戸医療産業都市に神戸イノベイティブセンターを開設し、眼科領域にとどまらず、幅広い分野で研究開発を推進しています。近年は神戸市立神戸アイセンター病院がiPS細胞を使った網膜治療の臨床研究を行うなど、神戸医療産業都市は眼科医療の発展において重要なポジションにあり、同センターの活躍も期待されています。礒脇明治所長に、日々の活動やセンターの未来などについてうかがいました。

「患者さんの辛さは自分ごと」が日々の研究の合言葉

当社は70余年にわたり、眼科薬のパイオニアとして歩んできました。私たちがいつも携帯しているカードには、「SENJU SENSE」という当社社員が共有する価値観が書かれています。「Good Company(千寿製薬と関わるすべての人々の『しあわせ』を追求する)」をテーマに掲げ、「If I were you(もし、私があなただったら…)」と常に相手の立場を考え、行動することなど、それぞれの社員が「SENJU SENSE」に示された価値観や行動指針を胸に、日々研究に向き合っています。近年は研究対象を五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)の分野へと広げ、新たな医薬品の研究開発に挑んでいます。

2019年に誕生した神戸イノベイティブセンターは、国内唯一の研究拠点です。分散していた研究機能を集約し、研究開発の効率化を目指して開設しました。現在は基礎研究や製品開発に直結する研究を行っています。

自分で考え、恐れず挑戦する経験こそ成長の糧

私は2021年4月に当センターの総合研究所の所長に就任しました。研究所のメンバーには、「オーナーシップマインド(当事者意識)を持ち、自らが考え決定し、実行(チャレンジ)してほしい」と伝えています。この言葉は、私自身の経験から生まれたものです。

薬科大学に進学していた兄の影響で、私も薬学部に進み、卒業後は当時兄が勤めていた千寿製薬に研究員として入社しました。入社後は点眼薬の製剤設計や眼科DDS(ドラッグデリバリーシステム※)の研究開発に従事。研究員時代には、九州工業大学と米国ロサンゼルスにある子会社「SENJU USA INC.」に出向しましたが、特にロサンゼルス時代は苦労しました。子会社オリジナルの眼科医薬品を世に出すというプロジェクトを任され、意気揚々と渡米したものの、思うように進まず苦悩の日々が続きました。最終的には上司と二人でプロジェクトを再始動することになり、また、当時は現地の従業員も少なかったため研究だけをしているわけにもいかず、特許権利化の手続きを進めたりと、慣れない仕事にも取り組む必要がありました。

大変な毎日でしたが得たものは多く、何事も自分で決めて、自分で進めていかなければならない環境の中で大きく成長できたと思います。今ではあの時の経験が自分の後ろ盾になっていると感じています。

研究は失敗が常。メンバーには失敗を恐れず能動的に動いてもらいたいですし、失敗した時は前に転び、再チャレンジする気持ちを持ち続けてほしいと思っています。

※ 薬物を適切な場所・量・時間に作用させるためのシステム

神戸医療産業都市内の交流を通して協業への糸口を見つけたい

神戸医療産業都市で活動する中で、この地に拠点を置くメリットを実感しています。すでに活用させていただいているPMDA戦略相談連携センターの薬事・PMDA相談支援が近くで受けられるということが一つ。また、協賛させていただいた「2019日米医療機器イノベーションフォーラム神戸」や「メドテックグランプリ神戸2021」では、さまざまな交流が生まれ、情報を得る良い機会になりました。

私たちはイノベイティブセンターという名の通り、常に外部組織・機関の人たちと手を取り合い、研究や開発を推進していきたいと考えています。都市内には勢いのあるスタートアップや、魅力的な取り組みを行っている企業などが多く、協業に結びつきやすい環境が整っています。神戸市や神戸医療産業都市推進機構には、オープンイノベーションにつながる情報の共有や、気軽に交流できる場の提供を積極的に進めていただけるとありがたいです。私たちはそこから協業へのきっかけをつかみたいと思っています。

当センターの上階にあるカフェテリアからの眺めは圧巻で、神戸医療産業都市を展望することができます。ウッドデッキでは清々しい風に吹かれながら海が望め、私のお気に入りの場所です。最近は忙しくてゆっくり利用することができませんが、時間がある朝はドリンクを手にウッドデッキに出て、絶景から癒やしやパワーをもらうこともあります。

神戸医療産業都市発展の一翼を担えるよう努力を惜しまず前進を続ける

10年後、神戸医療産業都市がどのように変化しているのだろう?と想像をふくらませてみると、サンフランシスコやサンディエゴなどにあるバイオテック・クラスターが頭に浮かびます。将来は「日本のバイオテックの中心地が神戸医療産業都市だ」と言われるようになっていることが理想です。そのためには、私たちも努力しなくてはいけません。現在手掛けている研究が一つでも多く実を結び、眼疾患でお困りの世界中の患者さんに、神戸医療産業都市発の製品を届けられるよう成長していきたいです。もちろんそこには、私が専門とする眼科DDSを応用した製品も含まれるように、より一層精進したいと思っています。

今後は都市内に、ドラッグデリバリーやマテリアルサイエンス(材料工学)を専門とする大学や企業が増えることも期待したいところです。志を同じくする仲間が近くにいると、研究を進める上で励みになります。

これからも当社はGood Companyとして、国内外でしっかりと存在感を示せる企業でありたいと思います。

千寿製薬株式会社 神戸イノベイティブセンターSENJU PHARMACEUTICAL CO.,LTD.

https://www.senju.co.jp/

世界中の人々の目の健康に奉仕するという使命感と、安全性を最優先した開発ポリシーのもと、千寿製薬は眼科薬のパイオニアとして常に時代にさきがけて独創の道を歩んできました。現在は五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)の領域において、優れた医薬品とサービスを創提することを目指しています。

2019年に開設された同社国内唯一の研究拠点である神戸イノベイティブセンターには、大きく2つの研究所を備えています。「オーキュラーサイエンス研究所」では原因分子を見つけるといった基礎的な研究を行っており、「総合研究所」では製品開発がメインの応用開発的研究を行っています。各大学との複数の共同研究など、産学連携にも注力。患者さんに安全で有効な医薬品をいち早く届けるための研究を力強く推進しています。

千寿製薬株式会社 神戸イノベイティブセンター

温かな心が通い合う最先端の低侵襲がん医療を実践

神戸低侵襲(ていしんしゅう) がん医療センター

身体に優しい多種多様な治療法

医療機器の技術革新により、近年は患者さんの身体に負担が少なく回復が早い低侵襲治療に取り組む病院が増えています。2013年に開院した神戸低侵襲がん医療センター(KMCC)もその一つ。リンパ節への転移がない早期のがんや、手術をすると大きくQOL(生活の質)が下がる患者さんなどに対して「切らずに治す」最先端治療を行っています。

血液がん以外のがんを対象とした治療は、3種類の最新装置を用いる放射線治療が中心。いずれも精度が高く、腫瘍に対して多方向から集中して放射線を照射することができます。呼吸で動く腫瘍を正確にとらえ、小さながんもピンポイントで照射できる「サイバーナイフ」、腫瘍の形に合わせて照射する「トモセラピー」、広範囲を短時間で照射するだけでなく、回転しながらや呼吸に合わせた照射も可能にした「トゥルービーム」を備え、それぞれの特長を生かした治療を提供。放射線治療は単独で行うだけでなく、抗がん剤治療と併用する化学放射線療法、免疫療法、カテーテル治療、内視鏡治療など、さまざまな治療法と組み合わせることで治癒を目指します。また、がんによる心身の痛みや辛さを和らげる緩和ケアにも取り組んでいます。

KMCCは紹介状がなくても受診できます。また、兵庫県内の患者さんがほとんどを占めていますが、要望があれば県外からの患者さんも広く受け入れています。通院が難しい遠方の患者さんに対しては、地域のかかりつけ医と連携し、安心して治療に向き合えるようサポートしています。

がん患者さんの心と共に歩む

がん治療を取り巻く環境の変化は目覚ましく、診断精度を高めるAI技術や、血液、尿、唾液などを利用した診断技術がどんどん普及しています。KMCCでは時代に即した最先端治療を取り入れ、臨床研究や治験を積極的に推進する一方で、人と人とのつながりを大事にした医療を重視。「和顔愛語」の精神を持ち、患者さん一人ひとりの声に耳を傾け、思いに寄り添う治療やケアを実践してきました。

病院長室には座右の銘として掲示されている

最近はコロナ禍による受診控えの影響で、がんが進行してから見つかるケースが増加。藤井正彦病院長は現状を危惧し、小さな異変も見過ごさず、速やかに受診してほしいと訴えます。「昔は予後が良くなかった部位のがんも、検査技術の飛躍的な進歩によって早期発見が可能となり、10年後の生存率が年々上がっています。当院では安全・安心に配慮し、感染対策を徹底しています。定期検診や診察を怠ることなく、早期治療につなげていきましょう」

藤井 正彦 氏理事長・病院長

より侵襲の少ないがんの診断や治療の技術進歩は今後も続きます。当院では積極的に最新技術を取り入れ、神戸医療産業都市内の医療機関と連携し、治療体制を整えています。身体の不調があれば気軽にご来院ください。また、患者さんの悩みや不安をサポートするため、オンラインや電話による受診相談もスタートしました。こちらもぜひご活用ください。

藤井 正彦 氏

最先端分野で輝く柔軟な発想力と技術力を育成

甲南大学 フロンティアサイエンス学部生命化学科

学生の個性と能力を伸ばす環境

甲南大学フロンティアサイエンス学部生命化学科(FIRST)は、ナノテクノロジー(化学・物理)とバイオテクノロジー(生物)を融合したナノバイオテクノロジー(生命化学)を学ぶ場として、2009年に開設されました。医療や食品、新素材などの開発に応用できる基礎研究に取り組み、社会に貢献する人材を育成しています。

FIRSTでは、学生の「実験をしたい」という意欲に応え、研究中心のカリキュラムを編成しています。一般的な大学では1年次に履修する教養科目を2、3年次の配当科目とし、1年次から実践的な装置や器具を使った専門実験をスタート。1、2年次で基本的な実験操作を身に付けます。3年次になると研究室に所属し、研究活動を開始。時間をかけて卒業論文研究に取り組み、4年間でしっかりと専門的な知識と技術を修得することができます。

また、学びに集中できる独自の学習環境も整備されており、入学時から学生一人ひとりに「マイラボ」と呼ばれる専用デスクとロッカーが用意されます。自分の空間があることで大学への愛着が深まり、学習意欲の向上にもつながっています。研究ゾーンに隣接するマイラボは4フロアにそれぞれ設置され、学生たちはいつでも教員に質問することができ、また、各階ごとに異なる研究スタイルや研究内容に触れたり、年代を超えた学生や教員との交流に刺激を受けたりしながら、自分のビジョンを描いていきます。

産学官の連携強化を目指して

FIRSTは神戸医療産業都市にキャンパスがある利点を生かした課外活動にも力を注いでいます。「神戸医療産業都市一般公開」では、小・中学生向けの実験講座に学生がティーチングアシスタントとして参加。社会に向けて自分の存在をアピールする良い機会となっています。また、研究機関や企業などから要請があれば、短時間の実験補助に就き、社会体験をする「ナノバイオコンビニエントプラン」も実施しています。

近年は開かれた大学としての役割を重視。「産学連携サロン」や「クラスター交流会」の開催を通して周辺の機関や企業と関係性を深め、連携しながら研究や教育を推進してきました。2018年からは同キャンパスを「メディケミカル拠点」と名付け、医療技術や薬剤開発のための研究基盤を形成するだけでなく、神戸医療産業都市の企業や医師と連携し、医療関連分野で活躍できる人材を育成することも目指しています。その一環として、大手製薬会社の日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社と包括連携協定を締結。藤井敏司学部長は「本学部では、治療に役立つ素材や検査薬などの研究開発が可能。ものを作って評価できるという強みを広くアピールし、多くの機関や企業から頼られる存在になっていきたい」と目標を掲げます。

各学生の固有スペース「マイラボ」

藤井 敏司 氏学部長・教授

「神戸医療産業都市一般公開」では、毎年多くの神戸市民の皆さんがご来校くださり、本学部の研究内容の展示や実験体験などを楽しんでいただいております。昨年と今年はコロナ禍でWeb開催となりましたが、いつかまた現地で開催できるようになれば、ぜひご来校ください。

藤井 敏司 氏