KBICで活躍するトップランナーたち

川真田 伸

医療産業都市の持続可能な発展のため
細胞療法の産業化を推進

川真田 伸Kawamata Shin

神戸医療産業都市推進機構 細胞療法研究開発センター センター長

川真田伸センター長が率いる神戸医療産業都市推進機構 細胞療法研究開発センター(RDC)は、医療用細胞の製造を行い、その取り組みと技術が国内外で注目されています。近年は細胞・遺伝子治療開発のスピードが加速し、再生医療等製品に携わる企業からの細胞製造のニーズが一層高まってきたことから、このたび神戸医療産業都市内に同地区最大規模の細胞受託製造設備を整備。3月より運用が始まっています。今回は川真田センター長に、細胞療法を市民の皆さまに届けるための産業化への思いや、今日までの軌跡をうかがいました。

子どもの頃から絶えない好奇心

最近は遺伝子・細胞製剤の製造管理責任者の業務、細胞関連の研究開発の業務に加え、細胞培養施設の新設準備など、ほぼ隙間なく予定に沿って働く毎日ですが、気晴らしの一つとして続けているのが自転車通勤です。米国留学時代を含めこの25年間、雨でない限りほぼ毎日自転車で通勤しています。ペダルさえ漕げばどこにでも自由に行ける自転車が好きで、六甲台の自宅から職場までの朝の50分は、1日で最も楽しい時間です。実は、自転車小旅行は幼少期から始めており、徳島の吉野川沿いの町で育った小学生の頃は、近所の用水路はどこにつながっているのか?鉄塔の電線はどこに消えるのか?など、かなり無謀な調査に精を出していました。幼少の頃からの興味がこうじて、大学では物理(素粒子)を勉強しようと思い、京都大学の理学部物理学科に進学したのですが、世の中は物理以外に面白いものに満ちていることが判明し、ついには自分を探す旅と称して、インド・ネパールなどを数回放浪しました。その後何とか大学を卒業し、工場設備の検査会社に就職しましたが、赴任先のイランでイラン・イラク戦争のあおりを受けて何度か空爆に遭い、ついにはトルコ政府が手配した邦人救出用の特別機で帰国しました。

世の中の役に立つ仕事をと思い、医師を志す

ここで、やはり何か“世のなかの役立つ仕事”に就くべきではないかと思い至り、医者になろうと神戸大学医学部に入学。白血病治療の基礎となる造血幹細胞の分化系譜の美しさに心を惹かれ、血液内科医を目指すようになりました。研修医を和歌山日赤病院で勤めたのち、京都大学大学院医学研究科に入り、白血病の研究を行いました。卒業後は博士研究員(ポスドク)として、米国のノバルティス社の研究所やスタンフォード大学医学部でマウスの骨髄移植モデルを使った本格的な血液分化の研究に没頭しておりました。具体的には、現在当センターで製造しているノバルティス社の遺伝子・細胞製剤キムリア®の原型となるような、白血病細胞を選択的に認識する遺伝子を導入したT細胞の作製を行う研究チームに配属され、日夜白血病マウスと格闘していました。充実した研究生活を終え、京都大学医学部附属病院第一内科に帰ったあと、当時理化学研究所 発生・再生科学総合研究センターの副センター長であった西川伸一先生に声をかけていただき、先端医療振興財団(現神戸医療産業都市推進機構)の研究員として2002年に着任。その後20年間、この神戸ポートアイランドで幹細胞の研究と細胞治療の実用化の仕事をしています。

神戸での出会いから生まれた道筋

神戸に来てからの2、3年は、造血幹細胞の研究をしていましたが、ある日西川先生からお声がかかり、細胞培養施設の管理者もするようになりました。それからしばらくして当財団が文部科学省の橋渡し研究拠点となり、その事業も始まるようになると、先端医療センターの当時のセンター長であった田中紘一先生の依頼で、先端医療振興財団の臨床研究支援組織の事務局長の仕事も兼ねるようになりました。基礎研究から臨床研究実施まで幅広く医療開発に関わるようになり、スタッフも増え、業務の幅も広がったため、いくつかの部署を統合して、現在の細胞療法研究開発センターへと組織改編していただきました。私は初代のセンター長として、細胞治療という切り口で細胞の基礎研究から、薬事法に基づく臨床用細胞製剤製造までの業務をカバーしています。

細胞治療の実用化と神戸医療産業都市の発展をどう結び付けるか

このような活動を続けて20年、その間に「基礎研究・臨床研究・薬事開発・臨床をいかにつなぐのか」「神戸の医療提供と医療産業基盤を持続的な事業としてどのように発展させるのか」という組織運営に自分の関心が移ってきたと自覚しています。ポートアイランドでこの22年間営んできた神戸医療産業都市は、最新医療の研究・開発・提供という使命と、同時にその名の通り医療関連産業の整備・維持・発展という使命があります。この医療産業基盤を発展させるためには、製薬企業だけではなく検査会社・運送会社・倉庫会社・人材派遣会社など幅広い分野の企業との連携が必要で、遺伝子・細胞製剤の製造施設はそれらを結びつける核になります。そしてこの企業連携体を、入口である公的研究機関と出口である公的医療提供機関との間に位置付け、医療産業複合体を目に見える形で国内外に示すことが、地域の持続的発展につながります。私はこの地域おこし活動に遺伝子・細胞製剤の製造施設の管理運営の分野で担ぐ“かつぎ手“として貢献したいと考えています。今できる「役立つ仕事」として、このchallengingなテーマは、僭越ながらやりがいのあるものです。

徳島で始まった私の「用水路の行き先探しの旅」の行先は、神戸医療産業都市だったのか?・・などと自転車で毎日通勤しながら、妙に納得しているこの頃です。今までこのような回り道、隘路(あいろ)を通って神戸で働いている私ですが、神戸市民の方々におかれましても、神戸医療産業都市構想の理解者、サポーターになっていただけるようお願いいたします。

神戸医療産業都市推進機構 細胞療法研究開発センターResearch & Development Center for Cell Therapy

https://www.fbri-kobe.org/rdc/

採取した細胞を必要とされる細胞に加工し、患者さんに移植する細胞治療にまず求められるのは安全性です。当センターでは安全性を担保するための試験デザインの策定、細胞培養法や品質検査法の規格化についての研究・開発の他、細胞製剤の受託製造、製造施設や品質を検査する施設の管理・運営を行っています。また、コストを抑え、安全性を確保しつつ細胞製剤をより多く早く製造できるシステムの開発も推進しており、製造段階のあらゆる情報をIT管理した次世代型細胞製造システムの開発にも異業種と共同で取り組んでいます。

再生医療研究や視覚障がい者支援等
で眼科領域をリード

神戸市立 神戸アイセンター病院

眼科に関する総合的支援を提供

神戸市立神戸アイセンター病院は、眼科疾患の標準治療から最先端高度治療、ロービジョンケア(視覚障がいがある方への生活支援)、新しい治療の研究をトータルに行う、日本で唯一の公的な眼科専門病院です。2017年に開院してから、眼科医療の様々な分野のスペシャリストたちが地域の眼科診療施設と連携しながら、主に成人を対象としたあらゆる眼科疾患の治療に励んでいます。また、職員が一丸となり、ホスピタリティにも注力。入院患者さんへの満足度調査では、4年連続100%を達成しています。スマホで診察待ちの状況を確認できるサービスも提供しており、外来患者さんに好評をいただいています。

院内2階にある「ビジョンパーク」では、視覚障がいがある方の日常生活や社会復帰を支援。見えない、見えにくいことで起こる情報不足への不安やコミュニケーションの困難をカバーし、リハビリや就労支援などを行っています。クライミングウォールを備えた開放的な空間や、視覚障がいに関する情報提供などのサービスは、一般の方も利用することができ、人々の交流の場にもなっています。

ビジョンパーク エントランス風景 

再生医療で世界の患者さんを救う

同院が担う大きな使命の一つが、眼科疾患における再生医療の研究と開発です。アイセンター病院の前身である神戸市立医療センター中央市民病院眼科と先端医療センター病院眼科の時代から長年に渡り、理化学研究所と共同でiPS細胞治療の臨床応用など最先端の研究開発を推進してきました。近年では、滲出型加齢黄斑変性や網膜色素変性症といった難病に対し、iPS細胞を応用した世界初の移植手術に成功しています。栗本康夫院長は「iPS細胞の移植はまだ本格的な実用化前。私たちが推進している再生医療の実用化を加速させて世界に広げ、1日も早く治療法のない眼の病気に苦しむ患者さんへ希望を届けたい」と力強く語ります。また、いち早く遺伝子治療の研究にも着手し、患者さんの生活の質の向上や眼科医療の発展のために研鑽を重ねています。

「神戸市は当院の取り組みに大変協力的で、さまざまなバックアップを得られるのは非常にありがたいこと。神戸医療産業都市内の関連機関とさらに緊密な連携を取りながら、多くの期待に応えられるよう、積極的に新しいチャレンジを続けたい」と意欲を示す栗本院長。その歩みに世界が注目しています。

栗本 康夫 氏病院長

当院では、世界最高の眼の治療やケアを患者さんに届けるため、日々努力を重ねています。また、その成果をまずは神戸市医療圏の患者さんにいち早く享受していただきたいと考えています。市民の皆さまには、神戸市に神戸アイセンター病院が存在することを誇りに思っていただけるよう、より高みを目指していきたいと思います。

業界初 データによる品質管理で細胞製造を自動化

シンフォニアテクノロジー株式会社

再生医療産業にイノベーションを

創業100余年の歴史を誇るシンフォニアテクノロジー株式会社は、船舶用発電機の開発から始まった電機メーカーです。長い歩みの中で培われた技術と知識は、宇宙ロケットから半導体製造装置まで、幅広い製品に応用されています。同社では、2013年より医療分野への参入を進める中で、次世代の治療として期待され、今後、産業として大きな成長が期待される有望市場である再生医療産業に着目。業界を牽引する神戸医療産業都市推進機構の細胞療法研究開発センター(RDC)との連携を強めるため、2018年に神戸医療産業都市内にメディカルエンジニアリングセンター神戸事務所を開設しました。RDCの川真田伸センター長と共に、再生医療に欠かすことができない細胞培養法の研究や細胞管理システムの開発などに取り組み、誕生したのが自動細胞培養装置「CellQualiaTM(セルクオリア)Intelligent Cell Processing System」です。

CellQualiaTM(セルクオリア)Intelligent Cell Processing System

神戸を基盤に世界を目指す

再生医療製品の原材料でもあり、製品でもある細胞は、「細胞」自体が生き物であるため、製造に細心の注意と労力を要し、微妙な条件や手順の違いが品質に大きく影響します。そのため、質の安定と生産効率向上に向けた製造工程の自動化が課題となってきました。課題解決のためには、常に培養工程全体を監視しながら製造し、質も担保する必要があります。そこで同社は、細胞製造の監視に必要な機能を搭載した自動細胞培養装置の開発に乗り出し、幾度も改良を重ねた結果、セルクオリアを完成。培養の全工程を自動化した本製品は、細胞の状態をタブレット端末などでリアルタイムにモニタリングすることができ、収集したデータを製造工程の改善にも活かせることが特長です。また、外気に触れさせない完全閉鎖系システムにより無菌状態を保ち、品質の安定化と安全性を実現。省人化も叶え、低コストでの細胞製造を可能にしています。

今春、神戸医療イノベーションセンター内に開設したソリューション・ラボでは、セルクオリアの見学や細胞培養評価を実施し、将来的には実臨床で使用する細胞の受託製造も行う予定です。河村博年メディカルエンジニアリングセンター長は「本製品はまだ進化の途中。より細胞製造に適したシステムの開発を推進しながら、当社の取り組みに賛同してくださる企業や機関と共に、神戸医療産業都市内にエコシステムを構築し、神戸から世界に向けて新たな細胞製造方法を発信していきたい」と夢を語ります。

河村 博年 氏メディカルエンジニアリングセンター長

私たちは、再生医療発展の一端を少しでも担うことができればという熱意のもと、セルクオリアの開発に取り組んできました。今後は神戸を基盤に実績を重ね、世界に認められる製品へと成長し、セルクオリアが市民の皆様の誇りになることが願いです。当社の技術が難病で苦しむ人々のお役に立てるよう、前進を続けていきます。