“切らないゲノム編集® ”を新たな疾患治療へ応用
株式会社バイオパレット
リスクを抑えた独自のゲノム編集
ゲノム編集とは、生命の設計図であるDNA配列を改変する技術であり、現在は主にDNAを「ハサミ」のような機能を持つ酵素で切断する“切るゲノム編集”の医療応用に向けた研究開発が進んでいます。 一方、株式会社バイオパレットは、神戸大学の西田敬二教授および近藤昭彦教授が開発した、DNAを“切らないゲノム編集®”をコア技術としています。ゲノム編集の医療応用では、意図しない編集を避けるなど、精度と安全性が求められます。“切らないゲノム編集®”は、例えるなら「消しゴムとエンピツ」のような効果を発揮する酵素を用いてDNAを構成する塩基を別の塩基にピンポイントで置き換える技術であり、精密かつ正確な編集を行うことができます。同社ではこの技術をマイクロバイオーム(腸内の細菌叢※1)の分野に適用し、新たな疾患治療の開発を目指しています。
※1:生物の口腔内や皮膚など、身体のさまざまな部位に生息する細菌の集団
マイクロバイオーム治療を開拓
「近年の研究で、糖尿病やアルツハイマーなど多様な病気の発生に、マイクロバイオームが深く関与していることが判明し、腸活と呼ばれる表現も一般的になっています。当社では、強固な知財戦略と技術開発によって構築した“切らないゲノム編集®”を用いて、マイクロバイオーム中の細菌の遺伝子を体外で編集し、治療効果を付与して経口投与で腸に届ける次世代の治療法を開発中です。さらには、その細菌が流れ出てしまうことなく腸内へ定着できる機能を付加するなど、多重編集にも取り組んでいます」と、奥村亮取締役は力強く語ります。また、岩田清和取締役は「当社が拠点とするクリエイティブラボ神戸には、当社と同じく神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科の技術を基盤に誕生した他のスタートアップも入居し、バイオエコノミー※2という共通のキーワードのもとで切磋琢磨しています。その中で当社は、“切らないゲノム編集®”による治療法開発を着実に前進させ、これからの産業の中核となるバイオエコノミーを切り拓く事例を、神戸の地で創造したいと考えています」と意欲を見せます。現在は、病気の予防や未病治療にも事業の裾野を広げたいと奔走中。神戸発の新たなゲノム編集技術の未来に世界が注目しています。
※2:バイオテクノロジーなどを活用して地球規模の課題を解決し、経済も含めた持続可能な成長を目指す概念
奥村 亮 氏(左)取締役 チーフ・サイエンティフィック・オフィサー兼チーフ・ビジネス・オフィサー
当社では研究者の8割が博士号を保有し、使命感を持って研究開発に取り組んでいます。ゲノム編集に対しては不安を感じられる側面もあるかもしれませんが、当社のアプローチはヒトの遺伝子を対象とするものではなく、ヒトへの安全性に配慮した治療手段です。今後はゲノム編集に関する正確で分かりやすい情報の発信にも注力し、市民の皆さまのご理解とご支援のもと、病気の治療や予防に貢献していきます。
地域の健康を支える次世代の看護職者を養成
学校法人行吉学園 神戸女子大学大学院
専門性と組織能力を育てる
「自立心・対話力・創造性」を育むきめ細やかな指導で、学生の成長を支援している神戸女子大学。 1940年に設立した神戸新装女学院を原点とし、 2020年には創立80周年を迎えました。2015年に 看護学部を設置し、その1期生が卒業する2019年 に大学院看護学研究科を開設。生命の尊厳への 深い理解と実践科学としての看護の本質を探究する 姿勢を基盤とし、地域保健と医療に寄与する高度な 知識と技術を持った専門看護師や研究者、教育者 の育成を目指しています。
看護学部と看護学研究科では一貫して、「コミュニティ・オブ・プラクティス」の考え方に基づいた教育方法を取り入れています。コミュニティ・オブ・プラクティスとは、あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、持続的な相互交流を通して各分野の知識や技術を深めていく集団のこと。学年や課程の垣根を超えた学生間で学びのコミュニティを形成し、看護学と看護実践を相互に教え合うことで学習効果を高めています。
地域に根差し、実践力を磨く
神戸ポートアイランドにキャンパスを置く看護学研究科では、高度先端医療と研究開発の拠点という地域特性を活かし、教育や研究を推進しています。「神戸市立医療センター中央市民病院と兵庫県立子ども病院は実習施設であり、地域の医療機関と連携した教育を展開しています。中央市民病院の専門看護師とは共同研究を行った実績もあり、質の高い看護職を養成する上で、非常に恵まれた環境にあると感じています」と東ますみ研究科長。また、看護師・保健師・助産師の免許を持つ教員は、知識や技術を地域に還元しており、島内に開設した「子育てコラボサロン どーなつ」はその一例です。子育て講座の開催や、育児の悩みや不安について気軽に話し合える機会を市民に提供し、大学院生たちの実践の場にもなっています。「今後は、近隣の医療機関や健康科学関連企業に働きかけて共同研究を推進し、地域住民の健康やQOL(生活の質)の向上に貢献したい」と力を込める東研究科長。さらには、「看護研究について相談できるセンターなどを開設し、地域で活躍する看護職者の支援も行っていきたい」と展望を描きます。
ホール・コモンスペース
東 ますみ 氏看護学研究科 研究科長 看護学部 教授
神戸医療産業都市にある看護学研究科として、今後は産学官医の連携を積極的に行い、研究の成果を市民の皆さまへの健康支援や疾病予防、地域医療に従事する看護職者の支援などに役立てていきたいと考えています。また、社会貢献活動にもより一層励んでいきたいと思います。