「富岳」を中核とするスパコンの産業利用を促進する
公益財団法人 計算科学振興財団(FOCUS)
スパコンで産業界の課題を解決
公益財団法人計算科学振興財団(FOCUS)は、理化学研究所の「京」をはじめとするスーパーコンピュータ(スパコン)の産業利用の促進を図るため、産学官の連携協力により2008年に設立されました。現在は、「京」の後継機である「富岳」を中心に、国内の大学・研究機関などの主要なスパコンや「FOCUSスパコン」の産業界での利用を推し進めるため、その環境整備や普及・啓発活動、人材育成などに取り組んでいます。
超高速の計算能力を持ち、現実世界では観測が困難な現象の数値シミュレーションを効率良く実行するスパコン。その存在は新型コロナウィルス感染症の飛沫シミュレーションにおける「富岳」の活躍によっても、広く認知されるようになりました。常務理事を務める末久広朗氏は「最近では、産業界からもスパコンを活用したいという声が増えています」と話します。財団が運用する産業利用向けの公的スーパーコンピュータ「FOCUSスパコン」は、「血流シミュレーション心臓手術設計支援」「食器洗い乾燥機における乾燥運転の性能予測」「『本能寺の変』における建造物火災再現シミュレーション」など、健康・医療やものづくり、防災・安全、環境・エネルギーと、多種多様な研究分野で活躍。その成果が私たちの生活に身近なものにも活かされ、より豊かな暮らしにつながっています。「今後はより多様な場面でスパコンが活躍するようになるはず」と、末久氏は期待を込めます。
計算科学の先進拠点・神戸
神戸医療産業都市の「シミュレーション・クラスター」には、FOCUSのほか、「富岳」を運用する理化学研究所、高度情報科学技術研究機構、神戸大学や兵庫県立大学の研究機関など、計算科学分野をリードする組織が数多く集まっています。この全国に例を見ない環境が相互連携をスムーズにし、様々な活動を推進していく上で大きなアドバンテージになっていると断言する末久氏。「近年は創薬分野や病気の診断・治療の開発にもスパコンが役立てられています。シミュレーション・クラスターの一翼を担う機関として、医療分野の研究開発がより効率的に進められるよう更なる連携を図りたい」と展望を語りました。
FOCUS内には、スパコンの歴史や利用事例をパネルなどでわかりやすく紹介した展示コーナーがあり、過去に性能ランキングで世界一に輝いた日本製スパコンのパーツも自由に見学することができます。
分散コンピュータ博物館 営業時間:9時〜17時 / 入場料:無料
私たちは、市民の皆さんに計算科学やスパコンに興味を持っていただくための啓蒙活動にも取り組んでいます。特に次世代を担う若い世代へのアプローチに力を注ぎ、中高生が気軽に学べるセミナーも開催しています。
神戸医療産業都市一般公開の現地開催日10月29日には、毎年恒例の一般向けセミナーを予定していますので、ぜひご参加ください。
小児がん患者を中心に幅広い世代へも
高度陽子線治療を提供
兵庫県立粒子線医療センター附属 神戸陽子線センター
最先端設備で高精度治療を実現
陽子線治療は放射線治療の一種で、がんに用いる治療法の一つです。水素の原子核である陽子を加速させてエネルギーを高めた陽子線と呼ばれるビームを、身体の外からがん細胞に照射して治療を行います。一般的な放射線治療に使われるエックス線は、病巣周囲の正常な細胞組織にもダメージを与えるのが難点ですが、陽子線は設定した深さに到達したところで一気に高いエネルギーを放出します。そのため、病巣へピンポイントで集中的に高線量を投与することが可能で、正常組織の損傷を大きく減らすとともに、高い治療効果が期待できます。現在は小児がんや成人の前立腺がんをはじめ、骨軟部腫瘍、肝がん、再発した直腸がんなどが治療対象となっており、保険適用となるがん疾患も増えてきています。
兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センターは、小児がんの患者さんに重点を置きながら、あらゆる世代へ幅広く陽子線治療を提供する目的で2017年に開設されました。最先端の陽子線治療装置を導入し、高精度な最新治療を行っています。
がん医療の未来を切り拓く
陽子線による小児がんの治療件数では、国内トップクラスの実績を誇る当センター。「海のトンネル」をイメージした小児用照射室を備え、治療時は専任の小児麻酔科医が患者の出迎えと見送りを行うなど、子どもたちがリラックスできる環境を整えています。また、兵庫県立こども病院とは通路で結ばれており、緊密に連携を図りながら安全・安心な治療の推進に努めています。
近年は、医学の進歩によって小児がんに対する放射線治療の成績が向上し、それにより長期生存者が増えました。しかしその一方で、晩年に起こる二次がん等の合併症が問題視されています。「陽子線治療は晩期合併症へのリスクを最小限に抑えることができる治療法であり、ひいては将来の医療費削減に貢献できると考え、我々は日々懸命に治療に取り組んでいます」と副島俊典センター長。神戸医療産業都市に拠点を置くメリットは、兵庫県立こども病院、神戸大学医学部附属病院国際がん医療・研究センターや神戸低侵襲がん医療センターなど、近隣のさまざまな機関と連携してより良い医療を提供できることだと強調します。地域に集積する高度な専門医療機関とのさらなる関係強化を図りながら、がん治療の発展に情熱を注いでいます。
小児用照射室
専用設備と高度技術が必要な陽子線治療は、どこの病院でも気軽に受けられる治療ではありません。当センターはこども病院との連携を実現した国内初の専門施設であり、豊富な経験と実績を生かした治療に努めています。「神戸医療産業都市一般公開」(10月29日(土)、30日(日)開催)では、陽子線治療の動画解説(オンライン)を予定しています。ぜひご覧ください。