KBICで活躍するトップランナーたち

松井 淳

研究に失敗はない 迷わず、恐れず、挑戦を

松井 淳Matsui Jun

甲南大学 フロンティアサイエンス学部
生命化学科教授・フロンティアサイエンス学部長

バイオテクノロジー(生物)とナノテクノロジー(化学・物理)を融合した「ナノバイオ(生命化 学)」という新しい学問を学び、先端技術に応用できる基礎研究に取り組む甲南大学フロン ティアサイエンス学部生命化学科(FIRST)。学部長である松井 淳氏は、長年にわたり生命 化学分野をけん引してきた研究者です。「研究の合間にはジャズやクラシックに耳を傾ける ことが楽しみ」という松井氏。日々の活動における信念や、神戸医療産業都市で描く教育・研究 の今と未来などについてうかがいました。

身近な化学の不思議に目を輝かせた少年期

思い起こせば、私が化学のおもしろさに目覚めたのは少年の頃です。近所で摘んできた花をいろいろな液体と混ぜて色を変える遊びに夢中になるなど、身の回りにある化学に興味津々でした。小学校の授業でも理科の実験が大好きで、物質を混ぜ合わせることで色が鮮やかに変化する現象に心を躍らせました。

生命化学の研究を始めたのは大学4年生の時です。京都大学で、血液中の酸素を運ぶヘモグロビンを構成している鉄について研究し、ヘモグロビンと同様の物質を人工的に生み出せないかと試行錯誤を繰り返していました。体の中に存在する物質と同様の働きをする物質を自分の手で創り出す、しかも、細胞や生物のいない実験室で、薬品を調合することによって生み出せる可能性があるということに、ロマンとやりがいを見出していました。

つまずきを原動力とし何事もおもしろがること

私は何事に対しても、おもしろがることを大事にしています。例えば、研究で新しい事象に出合った時に、「うまくいくかな」「失敗するかも」というネガティブな感情が先に立ってしまうと動けなくなります。でも、「おもしろそう」という前向きな気持ちが先行すると、「まずはやってみよう」と意欲的になれるし、そこから良いアイデアや次の計画も起こってくるでしょう。研究活動は傍目には楽しそうに見えるかもしれませんが、地道な作業の繰り返しであり、大変なことやうまくいかないことの方が多いものです。そもそも「うまくいった」とか「いかなかった」というのは、自分が思い描いた通りの結果になったか否かというだけであって、うまくいかなかったことも一つの発見です。実験で得た事実を素直に受け取って楽しむことは、研究へのモチベーションを保つ上で非常に重要なのです。

私は日頃から学生たちにも「何でもおもしろがって、挑んでみることが大事」と伝えています。またFIRSTでは、知的欲求を満たせる学修環境を整備し、研究中心のカリキュラム構成と国立大なみの少人数教育を導入しています。学びに集中できるように、入学時から各学生に専用デスクを備えた「マイラボ」も用意しました。大学院生や他分野の学生とも自然とつながりが生まれる伸びやかな学風の中で、創造性豊かでコミュニケーション能力に長けた人材が育っています。

神戸医療産業都市の地の利を活かし島全体をキャンパスに

今から約14年前、FIRSTを日本最大級のバイオメディカルクラスターに創設するにあたり、我々は「ポートアイランド全体をキャンパスにできないか」と発想を巡らせました。神戸医療産業都市に集積する企業や団体、研究機関などから支援を得ることができれば、より豊かな学びの環境が築けると考えたのです。

その思いを形にした一つが、研究機関や企業からの要請に応じて学生が短時間の実験補助業務に就く「ナノバイオコンビニエントプラン」です。社会との接点を持つことで視野を広げ、実務を通して深めた知識や技術を大学での研究に活かしています。

また神戸医療産業都市の進出企業・団体の方々と産学連携イベントや交流会を積極的に開催し、進出企業や各機関との関係を深め、さまざまな共同研究にも取り組んできました。自分のペースで進められるアカデミアの研究とは異なり、短期間で研究成果を出し、利益に貢献しなければならないプレッシャーはありますが、大きなプロジェクトに関わることで学生たちにやる気や責任感が芽生えています。

さらに、2018年からは「甲南メディケミカル拠点」構想を立ち上げ、周辺企業や医師などと連携し、医療分野で活躍する人材の教育と、医療技術や創薬の研究開発にも取り組んでいます。その一環として、大手製薬会社の日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社神戸医薬研究所と包括連携協定を締結しました。現在は、再生医療に役立つ材料を作る研究や、DNAの働きを制御する物質を見つけ出し病気の治療につなげる研究などを、学生たちが情熱を持って進めています。

神戸医療産業都市の企業・団体と垣根なく連携できる関係性を築きたい

今夏はポートアイランド内の理系学生限定の就活 応援イベント「1DAY企業ツアー」が神戸医療産業 都市推進機構主催で実施され、本学からも多くの 学生が参加しました。神戸医療産業都市内にある 企 業の研 究 所・職 場を見 学し、社員の皆さんや 他大学の学生との交流に刺激を受けたようです。 また開催にあたっては、推進機構の方々が学生たち から意見やアイデアを聴取し、企画を構成してくださ いました。これも教育効果が大きく、社会貢献意識の向上や発想力を高めることにつながったと感じて います。神戸医療産業都市だからこそ実現できるこの ようなイベントがもっと盛んに開催されるようになれ ば、 “ポートアイランド全体がキャンパス”という夢が 本当に実現するかもしれないと期待を膨らませて います。産学官がより連携を強め、一つの大きなファ ミリーとなって助け合える関係性を構築できるよう、 私も引き続き力を尽くしていきたいと思います。

甲南大学 フロンティアサイエンス学部 生命化学科KONAN UNIVERSITY FACULTY OF FRONTIERS OF INNOVATIVE RESEARCH IN SCIENCE AND TECHNOLOGY (FIRST)

甲南大学HP:https://www.konan-u.ac.jp/
甲南大学フロンティアサイエンス学部生命化学科HP:https://konan-first.jp/

旧制甲南中学校時代から100年を超える歴史を持つ甲南大学は、これまでに経済界における数多くのリーダーをはじめ、10万人をこえる個性あふれる有為な人物を世に送り出してきました。「ミディアムサイズの総合大学」だからこそ可能な、学生一人ひとりのニーズに応じたきめ細かなサポート体制の下、フロンティアサイエンス学部(FIRST)の学生たちは、最先端の実験・研究や課外活動等を通じて未知の現象を解明するよろこびにふれ、そこから発想力、計画力、実行力、解析·考察力、表現力といった社会で必要な能力を総合的に身につけます。

甲南大学

神戸医療産業都市の基盤を活かし、
生命科学分野のスタートアップを支援

株式会社リバネス

研究者と科学技術の成長を後押し

理工系大学院生が15人で2002年に立ち上げた株式会社リバネスは、当時、社会問題になっていた子どもの理科離れを食い止め、「若手研究者が広く活躍できる世の中をつくりたい」との思いから設立されました。現在は「科学技術の発展と地球貢献を実現する」という企業理念のもと、科学技術分野における教育・人材・研究・創業に焦点を当てた事業を多角的に展開。修士号・博士号を有する社員たちが、研究者の視点と起業家精神を持って、研究者や企業と共に多様な課題の解決に注力しています。

なかでも同社が創業時から主事業としているのが、小中高生を対象にした「出前実験教室」です。「身近なふしぎを興味に変える」をコンセプトに、最先端科学と技術をおもしろく、わかりやすく伝える活動は反響を呼び、日本初のビジネス化を実現しました。それによって培ったスキルを強みに、分野や業種を超えて、多くのプロジェクトを手がけています。

技術シーズを社会実装へつなぐ

また2018年からは、神戸医療産業都市推進機構や神戸市と連携し、「メドテックグランプリKOBE※」を実施しています。この活動を通して同社は「優れた研究を支えるには、スタートアップが研究に没頭できる場が必要である」と強く認識。神戸市の支援のもと2020年には、クリエイティブラボ神戸内に研究機器と環境を整備したシェアラボ「スタートアップ・クリエイティブラボ(SCL)」が開設されました。SCLの企画立案から携わり、現在は運営を担っている関西開発事業本部の濱口真慈氏は、「起業にかかる初期投資が大幅に削減でき、神戸医療産業都市のリソースを活かして研究開発を推進できる環境は、スタートアップにとって非常に魅力的。関西にはバイオ系の大手企業が集積しているので、SCLに研究開発拠点を持つことでパイプが作りやすく、事業化を進める上で大きなアドバンテージになる」とアピールします。

2022年に創業20周年を迎え、一層の飛躍を目指す同社。「今後は私たちが橋渡し役となり、SCLに入居するスタートアップと島内の企業との連携を加速させ、複数社で1つのプロジェクトを推進できるような環境を作りたい」と新たなビジョンを掲げます。

※創薬、医療機器などのメドテック領域の技術シーズを持つ研究者やスタートアップを発掘育成するプログラム

濱口 真慈 氏関西開発事業本部

神戸医療産業都市では、興味深い研究開発が数多く進んでいます。今後はこうした情報の発信を当社が率先して行い、次世代の研究者の育成に、より力を注ぐことが目標です。神戸市民の皆さまの力をお借りしながら、「将来は神戸医療産業都市で研究をしたい」と夢を抱く小中高生たちが増えるよう、地域での活動を広げたいと思います。

濱口 真慈 氏

「標準治療」を高水準で提供する整形外科病院

医療法人社団 あんしん会 あんしん病院

執刀医が診察から一貫して担当

ポートアイランドに2007年に開設されたあんしん病院は、日本屈指の手術実績を誇る入院治療に特化した整形外科単科の病院です。60床を備え、関節外科、スポーツ障害、腰椎疾患の手術を専門に行っています。同病院では、各疾患・部位別に専門知識と高い技術を有する整形外科医が揃い、術前の診察から手術までを主治医が一貫して担当する診療体制を構築。患者さんの生活の質や活動性が向上するように、人工関節・関節鏡手術・靭帯再建・腰椎の内視鏡手術や腰部脊柱管狭窄症の低侵襲手術など、身体への負担が少ない手術を年間約3500件実施しています。

初診や術後の通院治療、リハビリについては、県内4ヵ所にある関連施設「あんしんクリニック」や、連携する地域の医療施設が担当。全国に先駆けて導入したウェブ型電子カルテシステムを活用し、施設間で治療情報を共有しながら早期の社会復帰や機能回復に力を注いでいます。また、三宮にある「あんしんクリニック」と「あんしんクリニック西宮」には、MRIとCTを完備。受診当日でも詳しい検査と診断を可能とし、速やかに治療ができる環境を整えています。

神戸医療産業都市での医療技術の発展に貢献したい

神戸医療産業都市に拠点を置く利点について水野清典院長は、「一番には、神戸市立医療センター中央市民病院や西記念ポートアイランドリハビリテーション病院と近く、合併症のある患者さんへの対応や、回復期のリハビリ支援などの連携が取りやすいこと。交通網も発達しており、特に神戸空港からのアクセスが良好で、遠方からも患者さんが来院しやすい」と強調。

また水野院長は、近年、神戸医療産業都市で、整形外科領域における再生治療の研究開発が進んでいる現状や、次世代の医療機器の創出に向けた取り組みが加速している点に注目し、「臨床医の立場から支援できることがあれば、積極的に協力したい」との意向を示しました。「当院には数多くの手術経験で培ってきた高い技術力があります。民間病院ではできることは限られるかもしれませんが、神戸医療産業都市内に進出しているさまざまな医療関連企業や研究機関などと連携し、新しい治療や医療技術の発展に貢献できる機会に恵まれれば嬉しい」と展望を語りました。

リハビリ室

水野 清典 氏院長

私たちは“We bring active life to you.” (アクティブな生活を患者さんに届ける)を モットーとし、外科の標準治療を高いレベル で患者さんに提供しています。整形外科医 だけでなく、麻酔科医や経験豊富な人材 がそろっていることが当院の強み。今後も チーム医療を大切にし、皆さまの生活や 運動の活動性向上を目指します。