KBICで活躍するトップランナーたち

松井 淳

革新的な創薬イノベーションに挑戦し続ける

和田 耕一Wada Koichi

神日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
執行役員 神戸医薬研究所長
博士(薬学)

1885年に創業したドイツ製薬大手のベーリンガーインゲルハイム(BI)。そのグループ会社である日本ベーリンガーインゲルハイムは2008年、神戸医療産業都市に「神戸医薬研究所(KPRI)」を開設しました。2013年から同所長を務める和田耕一氏は、革新的な創薬プロジェクトを牽引する業界のトップリーダーです。柔らかな物腰が印象的で、日課はウォーキング。「歩くことは健康維持だけでなく頭をクリアにするのにも効果的。ビジネスのアイデア創出にも一役買っている」とにこやかに話します。そんな和田所長の目に映る創薬の今、そして未来とは。

製薬分野での活躍を夢見て京大へ
挑戦を結果につなげた若き時代

私は現職に就いて今年で10年、入社してもうすぐ30年になります。さまざまな経験を糧に自分を磨いてきましたが、特に成長を感じられたのは、本拠であるドイツの研究所に出向していた2年半です。現地の医薬品研究開発プロジェクトに携わり、世界の研究者たちとしのぎを削る中で人間力が養われました。

今へとつながる道の始点は高校時代にあります。医師を目指していた友人に影響を受け、卒業後の進学先は医学部も考えていました。けれども、臨床現場の厳しい実情を知るうちに自分に医師は務まらないと思い直し、他の進路を模索することに。それでも医療職への憧れは尽きず、医薬品関連の仕事に就き医療に貢献しようと、京都大学薬学部への進学を決めました。学業に専念する中で研究の世界に魅力を感じるようになり、大学院へ進んでからは分子イメージング用薬剤に関する研究に情熱を傾けました。

日本ベーリンガーインゲルハイムとの出会いを結んでくださったのは、大学院時代にお世話になった教授です。当時、兵庫県川西市にあった医薬研究所を訪問し、アットホームな雰囲気や人を大事にする社風に惹かれ入社を決めました。配属された製剤開発部門では自分にとって未知の研究分野に挑み、奮闘する毎日。担当した業務は努力の成果が見えやすく、やりがいを実感することができました。自分が製剤設計した薬剤が製品として世に出た時の喜びは、今も色あせず記憶に刻まれています。

世界の研究開発拠点における神戸医薬研究所の役割

当社の親会社であるBIはグローバルに事業を展開し、世界各地に研究開発拠点を設けています。そのなかでも、神戸医薬研究所はアジアで唯一、実験施設を備えた研究開発拠点として重要な役割を担っています。体内で薬剤がどう動くかを確認する薬物動態研究と医薬品の製剤設計に関する研究の他、社外連携によって新薬開発を加速化するための事業も推進。国内外のスタートアップや企業、大学等とパートナーを組み、優れた技術や研究成果を画期的な新薬の開発につなげる取り組みの他、日本の市場に早く新薬を届けるための開発支援や薬事承認取得に関する事業も行っています。

BIの長い歴史をさかのぼると、医療ビジネスが盛んなアメリカよりも10年先に日本へ進出し、1961年から60年以上も日本で事業を展開しています。当グループにとって日本は、昔も今も変わらず非常に大切な市場なのです。

未来ある日本のスタートアップに光を当て、創薬の可能性を拓く

スタートアップは今、世界のトレンドとして重要な役割を果たしていますが、日本でもその活動を盛り上げようという機運が高まってきました。こうした動きに当社も賛同し、創薬スタートアップや起業家への支援強化を図っています。当社では、独創性に富んだ創薬研究の活動と事業化を応援するイベント「ベーリンガーインゲルハイム・イノベーション・プライズ」を2015年から世界各国で開催してきました。2022年には神戸市ならびに神戸医療産業都市推進機構とライフサイエンス分野に特化した「スタートアップ・エコシステム※」の構築に関する連携協定を締結。その協定の一環として、「ベーリンガーインゲルハイム・イノベーション・プライズ2022」を、初めて神戸市で開催しました。同連携協定によって神戸医療産業都市の医療関連企業や団体とスタートアップとの連携がより円滑になり、さらなるイノベーションの促進につながること、そして、神戸が持つブランド力によって当賞の認知度もアップすることを期待しています。

日本の創薬スタートアップは、数も規模もアメリカに遅れをとっているのが実情です。その一方で、発展の土台となる日本の基礎研究力は高く、ユニークな発想も多い。潤沢な研究資金が供給されて活動しやすい環境が整えば、次々に成功例も生まれ大きな波になる可能性があります。そのために、当社もできる限りバックアップしていくつもりです。

※スタートアップや大手企業、研究機関、投資家、行政機関、支援団体などがネットワークを形成してイノベーションを創出し、その成果・利益の循環によってイノベーションの輪が形成されていく仕組み

新薬開発に求められるのは患者さんの参画とスピード感

近年、新薬を生み出すハードルはますます上がってきており、それを乗り越えるためには患者さんの協力が欠かせません。創薬のさまざまなプロセスに参加、協力していただくことで研究者には見えない問題点が浮き彫りになり、また、患者さんから届く生の声で研究現場の士気も高まります。

加えて、研究者や医療従事者、投資家など多種多様なプレーヤーがスムーズに連携し、より積極的にイノベーションへチャレンジすることも求められています。神戸医療産業都市には将来有望なスタートアップや製薬企業が多数進出し、治験を実施する病院と多様な疾患の症例が集まっています。唯一無二のこの環境を上手に利活用することで、患者さんが待ち望む新薬の承認や販売がスピード感を持って進む可能性が大きいと考えます。

当社は今後、独自技術を強みにグローバル市場で存在感を示していきたいと考えています。そのために重要となるのは、各研究者が異文化の中で対等に議論ができるコミュニケーションスキルや交渉力を身につけること。高い技術と強いマインドを持つ研究者たちと共に、枠にとらわれない挑戦を続けていきます。

日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社Nippon Boehringer Ingelheim Co., Ltd.

日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社HP:
https://www.boehringer-ingelheim.jp/

130年を超える歴史を持つドイツの製薬企業ベーリンガーインゲルハイムの日本拠点で、医療用医薬品およびアニマルヘルスの2つの事業分野において、革新的な製品の研究開発を推進しています。なかでも神戸医薬研究所はアジアで唯一の実験施設を持つ研究開発拠点であり、同社のグローバルな事業展開において重要な役割を担っています。

日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社

多職種連携を実践できる高度な医療従事者を育成

兵庫医科大学

チーム医療の重要性を意識づける教育

兵庫医科大学は1972年の創設以降、「社会の福祉への奉仕」「人間への深い愛」「人間への幅の広い科学的理解」を建学の精神とし、現代医療に貢献する有能な医師を輩出してきました。開学50周年を迎えた2022年には、ポートアイランドにあった同一法人の兵庫医療大学を統合。医学部に加え、薬学部、看護学部、リハビリテーション学部を開設し、西宮・神戸キャンパスに4学部4研究科を有する「医系総合大学」として生まれ変わりました。

大学統合の意図について、「本法人では長年、質の高い医療を提供するために必要な多職種間連携の教育に注力してきた。このたびの統合により、以前にも増して学部間連携をスムーズに行える基盤が整い、チーム医療の実践的な教育に取り組んでいる」と明かす小山英則副学長。多職種が考えを認め合い連携することの意義を理解し、臨床の場で実践できる医療人材の育成を目指します。

学部と研究科の連携で広がる研究活動

今回の大学統合では、学部や研究科の垣根を越えた共同研究等を支援する「社学連携・研究推進センター」を新設。兵庫医科大学と兵庫医療大学がそれぞれ学部単位で行ってきた企業や自治体等との共同事業・研究活動について、相互連携で推進する体制を構築しました。同センター長も務める小山副学長は、「他学部・研究科の研究内容や実際の活動を知る機会が増えると、共同研究につながるチャンスが広がるはず。切磋琢磨することで研究のレベルも向上していくだろう」と期待を募らせています。

同大学では現在、理化学研究所やシスメックスなど、神戸医療産業都市に拠点を持つ機関・企業との共同研究が進行中で、2022年からはバイオベンチャーのヘリオスと、中皮腫に対するがん免疫細胞療法の研究も開始しています。小山副学長は「本学独自の研究シーズはまだ数多く眠っており、神戸医療産業都市の進出企業や研究機関、大学ともっと活発に情報交換ができれば、新たな共同研究に進展する可能性は高い。附属病院を持つ本学としては、治療法がない疾患の研究にも積極的に関与し、その成果を治療へつなげ、兵庫県民にいち早く届けたい」と意欲を示します。また今後は、社会貢献活動にも前向きに取り組む姿勢を見せており、子どもや市民を対象とした医療分野の啓蒙事業に注力していく方針です。

企業との情報交換会の様子

小山 英則 氏副学長

兵庫医科大学は、「EMPOWER THE PEOPLE 心に響く医を、私たちがいるかぎり」をスローガンに、より高度な多職種連携ができる次代の医療人育成を推進してまいります。また新しい発見・研究成果を市民の皆様にいち早く還元するだけでなく、次世代を担うこどもたちにも科学のおもしろさを伝え、アカデミックマインドを育むお手伝いができればと願っています。

小山 英則  氏

回復期リハビリテーション専門病院の特異性を臨床研究にも活かす

西記念ポートアイランド
リハビリテーション病院

医療専門職による行き届いた支援体制

神戸市立医療センター中央市民病院などの急性期病院や地域の医療機関と連携し、365日体制で回復期のリハビリテーションを行っている西記念ポートアイランドリハビリテーション病院。急性期の治療を終え症状が安定した患者さんを受け入れ、早期にリハビリテーションを開始することで後遺症を最小限に抑えると共に、生活の質の維持や向上を図ります。入院中はリハビリテーション専門医や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がチーム一丸となって患者さんを支援。管理栄養士による栄養指導や食事提供のほか、歯科医師と歯科衛生士が口腔ケアや嚥下機能の回復・維持にも努め、1日も早い自宅復帰を目指します。

また、循環器内科、脳神経外科、総合内科、救急といった各分野の専門医が常勤し、精密検査が可能なMRIや骨塩定量検査※を導入するなど、合併症にも迅速に対応できる院内体制を構築しています。音楽療法士による音楽療法も取り入れ、精神面の回復にも力を注ぎ、自宅復帰率90%を実現しています。

※骨を構成するカルシウムなどの状態を測定する。骨粗しょう症の診断や治療に用いる。

多様な臨床データや経験を共同研究へ

また同病院では、実臨床から得た貴重なデータを医療の発展に活かそうと、さまざまな共同研究にも着手し、神戸医療産業都市内の医療機関や地域の大学等と連携して、骨粗しょう症予防やサルコペニア(加齢や病気に伴う筋肉量低下)に関する研究に取り組んでいます。小澤修一院長は「質の高い治療やケアを提供していくためには学問的な裏付けが必要であり、当院の医師やスタッフが率先して新しい情報を発信しているのは大変喜ばしいこと。院内の活性化やスタッフのモチベーションアップにもつながっている」と高く評価し、今後も臨床と両立しながら共同研究を推進していく予定です。

神戸医療産業都市については「先端医療が目覚ましく進歩し最新の医療情報が得られやすい環境に当院が置かれていることは、臨床や研究を行う上で大きなメリットであり刺激にもなっている。さらに、空港が近いという利点を活かして、外国の医療機関とも良好なパートナーシップを築きながら神戸医療産業都市や医療の未来を拓いていくことができればなお良いのではないか」と提言。できることがあれば惜しみなく協力したいとの意向も示しました。

心疾患患者用リハビリ器具

小澤 修一 氏院長

今後は外来にも力を注ぎ、ポートアイランド内に限らず広く地域の医療機関と連携しながら、生活期のリハビリテーションにも目を配っていきたいと考えています。患者さんが退院後の生活を自分らしく過ごし、充実した人生を送るために、当院ができることを全力でサポートしていきます。