KBICで活躍するトップランナーたち

木原 康樹

新型コロナとの闘いで得たより強固なチーム力

木原 康樹Kihara Yasuki

神戸市立医療センター中央市民病院
病院長

新型コロナウイルス感染症の流行期に多くの重症患者を受け入れ、「最後の砦」として神戸市民の命を守ってきた神戸市立医療センター中央市民病院。厳しい闘いに挑み続ける自組織のことを「軍艦」に例えた木原康樹病院長は、その船長として難しい舵取りを担いました。「新型コロナの性格がわかり、診療体制もしっかり構築された今は、落ち着いて対応できるようになった」と穏やかに話す木原病院長に、組織の中で新たに芽生えた意識や今後の目標などについてうかがいます。

長いトンネルの先にようやく差し始めた光

2020年の病院長就任と同時期に始まった新型コロナウイルス感染症との闘いも、3年が過ぎました。「光陰矢の如し」と言いますが、歳を重ねると月日の経つスピードはより増すもので、私にとってこの3年間は3か月くらいの体感です。神戸市民の命を最優先に考え職務にあたると同時に、懸命に新型コロナに立ち向かう職員の健康と命をいかにして守るのか。病院長として課せられた2つの重責を全うするために全身全霊を捧げてきました。

長く張り詰めていた緊張の糸が解け、仕事以外にも目が向くようになったのは、つい最近のことです。外出が制限されている間に脚力が落ちてしまったので、昼休みに30分ほどポートアイランド内を散歩するようになりました。南側の堤防に出て、神戸空港を離発着する飛行機や海を行き交う船を眺めたり、街路樹がつける葉の色や花の美しさに季節の移ろいを感じたり。心を奪われた景色や新たな発見をスマホのカメラで撮影しながら、じんわりと汗をかく時間は心地良いものです。歩数計が自分の目標値をクリアしていると達成感もあり、日々の楽しみになりました。

コロナ禍で再認識した「共有」と「協働」の大切さ

新型コロナという大きな脅威に対し、私たちは知恵を出し合って戦略を練り、組織体制の見直しを図るなど努力を重ねました。その過程において、皆の職務に対する姿勢や意識は少なからず変化したと思います。未知のウイルスを前にしたとき、人間1人の力はあまりに無力です。多職種が意見を重ね、同じ方向を向いて進んでいくことが大切であり、それを実践する中で自分の立ち位置やするべきこと、そして日々更新される情報を仲間と「共有」する重要性を改めて認識しました。共有への理解を深め、「協働」を推進することで、チーム医療の質もレベルアップしたと感じています。一人一人が自分の立場を理解して、何をなすことが組織全体のプラスになるかを考えながら行動し、物事をスムーズに遂行することがチーム医療の本質です。その形に私たちが近づくことができた結果として、Newsweek誌の「World’s Best Hospitals 2023」への選出、厚生労働省の「救命救急センターの評価結果」で救命救急センターが9年連続の「日本一」、神戸市外部評価で3年連続最高ランク「S」の獲得につながったと思っています。暗中模索だった闘い方にお墨付きをいただけたのだと安堵しました。

質のある医療が求められるポストコロナ時代へ突入

ポストコロナは病院の質が問われる時代になると予測していましたが、私たちはすでにその段階に足を踏み入れています。これからの医療従事者や病院に求められるのは、多くの物事を卒なくこなすことではなく、一つ一つを品質良く完遂する能力なのではないでしょうか。それを当病院に当てはめてみると、重篤な患者さんに対する高度医療をチーム一丸となって成し遂げる力ということになります。この場合の高度医療とは、神の手と言われる医師の手技や最新の医療機器だけに頼ることではありません。こうしたエッセンスをうまく利用しながら、目の前の患者さんの問題を多職種で分析し、情報を共有しながら速やかに解決することだと考えます。幸いにも当病院は、新型コロナ対応から多くを学び、よりレベルの高い医療を提供できるようになりました。市民の皆さんにとって、さらに心強い「最後の砦」として成長できたと確信しています。

世界の名だたる病院と対等に交流するために

コロナ禍では、私が以前から目標に掲げていた医工連携の道も開けました。その一つとして、神戸医療産業都市の進出企業であるシスメックスと新型コロナウイルスの抗体検査等に関する研究開発を行い、臨床実装に貢献できたことは大きな成果でした。他にもさまざまな企業と80件を超える新型コロナ関連の臨床研究に取り組みました。医工連携は神戸医療産業都市のメディカルクラスターの中核を担う当病院が果たすべき重要な役割の一つです。臨床研究を通して進出企業との結びつきを深め、研究開発の場を提供するとともに、私たちも企業の方々から知恵をお借りするという交流を、神戸医療産業都市推進機構の支援を頂きながら積極的に進めていきたいです。

当病院は2024年に開設100年を迎えます。高機能と高品質をミッションに掲げる医療機関としてさらに発展していくためには、「国際化」が重要なテーマになると考えています。海外の医療従事者から共同研究や技術指導の要望が来るような病院になりたいですね。

私たちはどこにも負けないチーム医療のスキルや共有のノウハウを持っています。次の100年はそれらを国外に情報発信しながら、世界の名だたる医療機関と対等に交流ができる病院を目指していきたいと思います。

神戸市立医療センター中央市民病院Kobe City Medical Center General Hospital

神戸市立医療センター中央市民病院HP:
https://chuo.kcho.jp//

神戸市立医療センター中央市民病院は、1924年に神戸市長田区に開院した「市立神戸診療所」に始まり、1981年にポートアイランドへ移転、2011年に現在の場所に新築移転し、2024年3月には開院100周年を迎えます。768床の病床、30を超える診療科を有する神戸市域の基幹病院で、地域住民の生命と健康を守るため、患者さん中心の質の高い医療を提供しています。新型コロナウイルス感染症パンデミック下では、全国の医療機関に先駆けて重症感染者専用臨時病棟36床を開設、多くの患者さんの治療を実施してきました。その一方で、企業や大学と連携し、同ウイルスの抗体検査等に関する研究開発、治療や検査に関する研究も進めており、医療の革新にも貢献しています。24時間365日、市民の生命と健康を守る「最後の砦」として、地域医療機関との連携を強め、救急医療の充実、高度医療の提供、そして患者さんにやさしい医療の提供を継続しています。

神戸市立医療センター中央市民病院

新薬を一日も早く届けるための支援を
グローバルに展開

IQVIAサービシーズ ジャパン合同会社

医薬品開発を様々な方向からサポートする重要な存在

米国に本社を置くIQVIAは、データサイエンスやテクノロジー、専門知識を融合し、ライフサイエンスビジネスの最適化を支援するグローバルリーディングカンパニーです。半世紀以上の実績があり、約8万6000人の社員たちが100以上の国と地域で活躍しています。その日本法人であるIQVIAサービシーズ ジャパンとIQVIAソリューションズ ジャパンなどで構成するIQVIAジャパン グループには、CRO事業(医薬品開発受託業務)やCSO事業(医薬品営業・マーケティング受託業務)、コマーシャル・ソリューション事業(データ、テクノロジー、コンサルティングサービス)があり、それぞれが法人の枠を超えて有機的につながり、事業に取り組んでいます。

主軸の1つであるCRO事業では、厳密な規制や管理を要する新薬の臨床試験の依頼や準備、モニタリング、データ収集等の一連の業務を製薬会社に代わって行い、医薬品開発の効率化や安心・安全に寄与しており、世界売上上位のほとんどの製品開発に関わっています。最近では、ICTを用いた臨床試験の実施、リアルワールドデータの利活用や医学的な専門知識を必要とする戦略立案など事業範囲を拡大。業務の一つ一つが“ For the patient ”であるということを組織全体で常に意識し、その言葉を大切なモットーとして全社員が共有、業務に従事しています。

ポストコロナは臨床試験のリモート化も加速

神戸医療産業都市の力を借りて躍進

医薬品開発は近年、患者数が極めて少ない希少疾患や様々な検査の進歩により細分化された癌へとターゲットが移り、同じ研究の実施計画書を基に複数の国で臨床試験を行うグローバル試験が増えるなど、より高度で複雑になってきています。臨床開発事業本部長の松田秀康氏は、「私たちIQVIAはさまざまな国でサービスを展開してきた経験と人材、蓄積した膨大な医療データを利活用し、希少疾患や癌においても速やかに臨床試験やグローバル試験の基盤を整備できるのが強み。また、臨床経験のある領域別専門医が国内に15人在籍しているので、スポンサーが初参入する疾患領域の臨床試験に着手する場合はコンサルティングも担える」と強調します。同社は神戸医療産業都市内に先端医療臨床開発オフィスを開設しており、進出企業等との交流や協働にも意欲的です。「日本を代表するバイオメディカルクラスターの一員であることは、新薬を必要とする患者さんへの貢献を目指す上で非常に有用。引き続き神戸医療産業都市のブランド力を借り、当社が注力する細胞治療や再生医療の分野で価値を高めていきたい」と力を込めました。

松田 秀康 氏IQVIAサービシーズ ジャパン合同会社 臨床開発事業本部長

臨床試験のデータベースはインターネットによる検索・閲覧が可能で、臨床試験が行われている病院や内容などを知ることができます。臨床試験中の医薬品は販売前ではあるものの最新の医療であり、一定の基準を満たせば参加することも可能な場合があり、特に難病に苦しむ患者さんにとって一つの希望になるかもしれません。必要に応じてお役立てください。
臨床研究情報ポータルサイト

松田 秀康 氏

最新の科学的技術と知識で、市民の健康と暮らしを守る

神戸市健康科学研究所

感染症や食中毒発生時に迅速に対応

1912年に発足した神戸市健康科学研究所は、市の保健衛生行政の科学的・技術的な中核機関として、市民生活の安全・安心と健康を守るための調査研究や試験検査を行っています。また、感染症や食中毒などの健康を脅かす突発的な事態に速やかに対応し、まん延防止に努めるのも重要な役割です。同組織は感染症部と生活科学部で構成されており、感染症部は感染症や食中毒発生時の健康危機管理対応にあたるほか、保健所や医療機関と連携して病原体の詳しい解析やモニタリングを行い、日頃から感染症対策に取り組んでいます。生活科学部では、市内を流通する食品中の農薬・添加物・放射性物質などの検査や、水や大気中の化学物質の分析などを実施し、市民の健やかな暮らしを支えています。

施設内には病原体などを安全に取り扱うための高度安全実験室が設置されており、厳格な安全管理のもと、博士号や修士号を持つ研究職員と薬剤師、そして獣医師などの技術系行政職員が検査業務や研究を行っています。

豊富な経験と研究マインドが強み

新型コロナウイルス感染症においては、発生当初に市内で唯一のPCR検査施設として稼働し、市内医療機関等のPCR検査立ち上げの技術支援にも尽力しました。また、全国に先駆けてゲノム解析に着手し、変異株の検出やクラスターの検証を感染対策に生かすとともに、科学的根拠に基づく情報を市民や保健衛生行政に発信して感染予防の啓発に努めました。岩本朋忠所長は、「当研究所は100年以上の歴史を持っており、赤痢やコレラなどとの戦いに始まり、世界中で流行したSARSやMERS、2009年の新型インフルエンザなど、長年に渡って様々な公衆衛生上の課題に向き合ってきた。海外からもたらされることも多い感染症に対し、国際都市・神戸は古くから高い意識をもって立ち向かっている。新型コロナ発生時に私たちが即座に対応できたのは、蓄積した経験と研究マインドが生かされた結果だ」と胸を張ります。また、ポートアイランドに基盤を置く利点については「感染症拠点病院の神戸市立医療センター中央市民病院や兵庫県立こども病院との連携の取りやすさにある」と明言。同研究所の高度な病原体ゲノム解析技術や知見は、これらの医療機関との共同研究にも活用されています。「私たちの研究は将来の医療へのシーズにもなるはず。進出企業や大学等に当研究所のことを知ってもらい、協働して新たな治療法や予防法の創出に寄与したい」と語りました。

次世代シーケンサー(ゲノム解析装置)

岩本 朋忠 氏所長・博士(薬学)

私たちは新型コロナ対応から多くの貴重な経験と新たな技術を得ることができました。当研究所の生命線である「科学的な力」に一層磨きをかけ、引き続き市民の皆さんの命と健康を守っていくことが第一の使命です。また、次世代のライフサイエンス分野を担う若手の育成活動にも力を注いでいきたいと思います。