神戸大学統合研究拠点アネックス棟
産学官一体でバイオ医薬品の製造技術を研究
次世代バイオ医薬品製造技術研究組合
世界が注目するバイオ医薬品
近年、バイオテクノロジーを用いて作られるバイオ医薬品の研究開発が世界中で活発化しています。2013年に設立した次世代バイオ医薬品製造技術研究組合(MAB)は、経済産業省に認可された技術研究組合であり、バイオ医薬品の製造に必要な高度で高効率な技術の研究開発を共同で行う非営利共益法人です。35企業11大学等の組合員と13企業の賛助会員で構成(2024年2月時点)され、さまざまな課題の解決に向けた共同研究を進めています。現在は国立研究開発法人日本医療研究開発機構が実施する研究開発事業に取り組んでおり、バイオ医薬品の中でも、特に抗体医薬品の新しい生産プロセスの開発や、遺伝子・細胞治療用ベクター(治療用の遺伝物質を細胞内に届けるツール)を大量生産する製造技術の研究開発に注力しています。「2000年代以降、特に抗体医薬品の発展が目覚ましく、より安定した使いやすいものへと進化しています。がんやアルツハイマー病などの難病に対する抗体医薬品の開発も進み、将来的には世界の医薬品売上の半分を占めるのではと言われるまでになりました。しかし、製造に費用や手間、時間がかかることが問題視されており、治療効果の高い抗体医薬品を効率よく作る研究が望まれています」と現状について話すのは、MABプロジェクトリーダであり大阪大学教授の大政健史氏です。
培養装置と精製装置
バイオ創薬の未来を支える活動
MABでは東京・神戸に本部を構え、全国6カ所に集中研と呼ばれる製造拠点を設置しています。神戸本部・神戸GMP※集中研は重要拠点の一つで、神戸医療産業都市(KBIC)の神戸大学統合研究拠点アネックス棟内にあります。充実した実験設備と安全管理体制が整っており、組合員が各々の研究を検証する場として活用するほか、バイオ医薬品の開発・製造に関わる高度人材の育成、アジア太平洋経済協力(APEC)の医薬品査察官への教育研修なども実施しています。また、神戸拠点独自のプロジェクトも進行中で、肺気腫の治療に用いる抗体医薬の研究や、組合員でKBICの進出スタートアップでもあるシンプロジェン社と新型コロナウイルスワクチンの新たな製造プロセスに関する共同研究などが行われています。大政氏は「KBICのすばらしい研究環境は唯一無二。バイオ医薬品の分野へ新規参入を目指すスタートアップに居心地の良いエコシステムを提供していただき、当組合が製造面をサポートしていきたい」と展望を語ります。
※医薬品の製造管理と品質管理に関する国際基準。
大政 健史 氏MABプロジェクトリーダ 大阪大学教授
関西は昔から酒造りが盛んで、バイオものづくりが発展してきた地域。その中でも神戸には世界有数のバイオクラスターがあり、産学官が集結してバイオ医薬品の高度製造技術を開発できる恵まれた環境が整備されています。市民の皆様にはこのようなすばらしいエコシステムが神戸にあることを知ってもらい、誇りに思ってもらえれば幸いです。
がん治療の可能性を広げる温熱療法を提供
神戸低侵襲(ていしんしゅう)がん医療センター
がん細胞を加温して死滅させる
神戸低侵襲がん医療センター(KMCC)では、放射線治療や薬物療法を中心とした「切らずに治す」がん治療や心身の苦痛を和らげる緩和ケアに取り組んでいます。また、2023年からはハイパーサーミア(温熱療法)を開始しました。この治療法は、熱に弱いがん細胞の特性と、人間の細胞は42.5度以上で死滅するという原理を利用したものです。ベッドに寝ている患者さんの身体を電極盤で挟み、8MHzのラジオ波を患部に流して40分程度加温することで、がんの領域を選択的に温度上昇させがん細胞を破壊します。治療に伴う痛みや副作用がほとんどなく、血液がん以外のあらゆるがんや再発がん、転移性がんに適応できることが大きな利点で、放射線治療や薬物療法などとの併用により治療効果の増大が期待されています。さらには、がん細胞を攻撃する身体の免疫が活性化したり、食欲増進や痛みの緩和につながったりする効果もあります。
「保険適用になって30年以上経つ治療法ですが、臨床上の効果が不確かであまり認知されていませんでした。しかし、最近は治療装置の改良や温熱療法と併用できる抗がん薬が増え、治療効果も上がってきています」と藤井正彦病院長。KMCCでは表在性の腫瘍である乳がんだけではなく、深在性の直腸がんなども著しく改善したことに手応えを感じ、温熱療法の可能性を広げたいと考えています。「兵庫県内ではまだハイパーサーミアを導入している病院が少ないので、連携を図り多くの患者さんに提供していきたいです」
切らないがん治療をさらに追求
またKMCCは臨床研究にも重点を置いており、現在は神戸医療産業都市の進出企業であるマイテック社と温熱療法の治療効果を測る評価法の共同開発などを行っています。藤井病院長は「ポートアイランド内の企業と連携できるのは神戸医療産業都市を基盤とする大きなメリット。今後は神戸市や神戸医療産業都市推進機構にマッチングを支援していただき、共同研究を増やすことが目標」と抱負を語ります。
2024年度は手術や薬物療法、放射線治療などを補う「補完代替医療」にも注力し、「諦めないがん治療」をスローガンに掲げると明言。がん細胞が活動しづらい体内環境をつくるアルカリ化食事療法など、患者さんやご家族に寄り添った治療の提供を目指しています。
ハイパーサーミア(高周波温熱治療)治療器
医療の進歩により、がんになっても社会生活を営みながら治療ができる時代になりました。手術以外の治療手段も増えているので、病院で手術を勧められたときは、切らずに治せる手立てがないかについても模索してみてください。当院では今後も「切らずに治すがん治療」、そして「諦めないがん治療」を実践し、治療の選択肢を広げていきます。