CO2を資源に変える!「バイオものづくり」の最前線
二酸化炭素(CO2)を「排出物」ではなく「資源」へ。神戸医療産業都市を舞台に、革新的なバイオものづくりが大きな注目を集めています。微生物の力で物質を生み出す神戸大学発ベンチャーのバッカスと、その産業化を担う日揮HD。環境問題の解決と新産業の創出という大きな目標に向かってどのような挑戦を続けているのか。二人のリーダーに語っていただきました。
「育種」と「プロセス」の融合がもたらす速度革命
―まず、今回のプロジェクトが目指すビジョンについて教えてください。
近藤さん(以下、敬称略) 私たちは今、CO2を新しい資源として循環させる「カーボンリサイクル」の実現を目指しています。鍵を握るのは「水素酸化細菌」という特殊な微生物です。この菌はCO2を食べて、体内でプラスチック原料などの有用物質を作り出します。このように生き物の力を借りて物質を生産するのが「バイオものづくり」です。バッカスでは、生産能力を極限まで高めた「スマートセル(微生物)」を開発していますが、研究室で優秀な微生物が生まれても、産業レベルで大量生産できなければ社会を変える資源にはなり得ません。
水口さん(以下、敬称略) そこで日揮HDのエンジニアリング技術が不可欠になります。数リットル規模の研究成果を、数百立方メートルという工業スケールへ引き上げる「スケールアップ」が私たちの役割です。微生物の培養のみでなく、不純物の分離精製から製品化まで生産プロセス全体を最適化します。特にこの水素酸化細菌の培養では水素と酸素を用いますが、混合すると爆発の危険があるため、私たちの高度な安全制御技術が重要になります。
―二社がタッグを組むことで、どのような変化が起きていますか。
水口 従来は、菌を作る「育種」に数年かけ、いざ生産段階になって「大量生産に向かない菌だ」と判明し、育種からやり直すという非効率が当たり前でした。私たちは最初から協働し、日揮HDの設備で試験して不具合があれば、すぐにバッカスさんにフィードバックして微生物を再設計してもらう。この一気通貫のサイクルを高速で回しています。
近藤 通常、この分野で製品が市場に出るまでには20年はかかります。しかし、時代のニーズやグローバルな投資スピードを考えると、それでは遅すぎます。私たちは、そのプロセスを実質2年程度まで、つまり10分の1に短縮することを目指しています。微生物の育種から生産プロセスの構築までを一つのチームで行うこの体制は、まさに世界でここだけのものです。
長年、神戸大学教授として世界のバイオ研究を牽引してきた近藤さん。その知見を武器に、自らベンチャーを率いて、地球規模の課題解決という大きな出口を見据えている。
“すぐ隣にいる距離”が信頼を生み、イノベーションを加速させる
―二社が協力するようになったきっかけを教えてください。
水口 2022年、経済産業省の方から近藤先生をご紹介いただいたのがきっかけです。私は神戸大学の卒業生でもあり、すぐに先生を訪ねました。その日のうちに意気投合し、そこから3ヶ月間は他の連携企業※1も含め、多忙なメンバーが毎週末集まって朝から晩まで議論を尽くす合宿のような日々を過ごしました。
近藤 あの濃密な時間があったからこそ、強固な信頼関係を築けました。日揮さんの協力をはじめ、このプロジェクトのスケールの大きな構想や熱量、本気で世界を変えようとするチャレンジ精神に惹かれて、今では世界中からトップクラスの技術者が神戸に集まってくれています。
―神戸医療産業都市に拠点がある意義は何でしょうか。
水口 バッカスさんの本社と、日揮HDとの新拠点「JBX※2」が至近距離にある意義は極めて大きいです。課題を発見したとき、すぐに駆けつけてデータを見ながら議論できる。このアナログな濃密さが、不確実性の高いバイオの世界において、圧倒的な検証スピードを生んでいます。
近藤 神戸には新しい挑戦を支える地盤があります。今、ここにはバイオものづくりの新たなエコシステムが育っています。研究だけでなく産業化までを一気に担う、世界的な重要拠点へと進化していくダイナミズムを感じますね。
神戸から世界へ、地産地消で描く持続可能な未来
―この技術で、私たちの暮らしはどう変わるのでしょうか。
水口 身近なプラスチック製品などを、石油由来から「CO₂由来」に置き換えていくことができます。これにより、資源問題と温暖化問題を同時に解決できる循環型社会に近づきます。また、バイオには「地産地消」の特性があります。海外の石油に頼らず、その土地にある「不要なもの」を資源に変えられるのです。
近藤 空気中のCO₂だけでなく、例えば兵庫県の豊かな森林から出る間伐材などの廃棄物を原料にすることも可能です。地域の未活用資源を価値あるものに変え、産業を活性化させていく。これは地方創生の強力なツールにもなります。
―今後の展望と神戸市民へのメッセージをお願いします。
水口 バイオものづくりは食品や化粧品と非常に相性が良いです。神戸には酒蔵や化粧品メーカーが多くあります。私たちの技術を地元企業とタイアップさせ、おいしいお酒や肌にやさしい製品として形にしたい。そして神戸で築いた産業モデルを世界に展開する。「神戸で生まれた技術が地元の誇りになる。そして世界に向けた発信拠点になる」という夢を持っています。
近藤 私は、神戸を「バイオのことなら神戸に行こう」と世界中から人材が集まる拠点にしたいです。研究開発から新しい産業が興り、街全体が継続的に発展していく。そんな未来の成長の柱として、私たちは挑戦を続けていきます。
バイオものづくり製品の社会実装のみに留まらず、地域独自の資源を活用することで、地方創生や街のブランディングに貢献したいという情熱を語る水口さん。


