KBICで活躍するトップランナーたち

神戸から、未来の医療を育む。
3人の病院長が語る、神戸医療産業都市の可能性

  • 貝原 聡神戸市立医療センター中央市民病院 病院長
  • 平見 恭彦神戸市立神戸アイセンター病院 院長
  • 杉多 良文兵庫県立こども病院 病院長

高度急性期医療、眼科医療、小児医療。それぞれ異なる役割を担う3つの中核病院は、神戸医療産業都市(KBIC)という共通の環境の中で、互いの強みを活かしながら連携しています。この春就任した3人の病院長に、各病院の使命や地域医療への思い、神戸の医療の未来について語っていただきました。

3病院それぞれの強みが、地域医療を支える

貝原先生(以下、敬称略) 神戸市立医療センター中央市民病院(以下、中央市民病院)は、高度急性期医療を担う基幹病院です。24時間365日、救命救急や災害医療、高度専門医療、周産期、がん診療まで幅広く診ています。「断らない医療」を掲げて、高度な医療が必要な患者さんを最後まで受け止める。それが私たちの役割だと思っています。

平見先生(以下、敬称略) 神戸市立神戸アイセンター病院(以下、アイセンター病院)は、中央市民病院と旧先端医療センター病院の眼科が一緒になってできた、公立では全国的にも珍しい眼科専門病院です。一般的な眼科診療だけでなく、希少疾患や難治性疾患にも対応していますし、iPS細胞を用いた網膜難病の治療開発など、研究も大きな役割です。

杉多先生(以下、敬称略) 兵庫県立こども病院(以下、こども病院)は、出生前から成人移行期まで、切れ目なく子どもたちを診ている病院です。高度小児医療の最後の砦として難しい症例を受け入れる一方で、ご家族の支援もとても大切にしています。11月からはホスピタル・ファシリティドッグ®「ミコ」※も活動を始めます。医療だけではなく、子どもたちが安心して過ごせる環境も一緒に作っていきたいと思っています。

病院の垣根をこえて、支え合う

杉多 こども病院では、小児期から成人期への移行期医療(トランジション)で中央市民病院にお願いすることがあります。難しい症例についてご相談させていただくこともありますし、本当に心強い存在ですね。

貝原 ありがとうございます。でも、それが私たちの役割なんです。一般小児科は地域の先生方にお願いして、本当に専門的な医療が必要な患者さんはこども病院にお願いする。そういう役割分担が自然にできています。アイセンター病院とも渡り廊下でつながっていますから、全身麻酔が必要な患者さんや全身管理が必要な患者さんはこちらで診ていますし、それぞれ得意なところを担当しているんです。私はよく「ジグソーパズル」と言うんですが、それぞれのピースがきれいにはまっている。そんな感じですね。

平見 「ジグソーパズル」という表現は、本当にその通りだと思います。当院でも遺伝性疾患では、こども病院の先生にカンファレンスへ入っていただくことがありますし、全身管理が必要な患者さんは中央市民病院へお願いしています。一つの病院だけでは完結できない医療でも、この距離だからすぐ相談できますし、一緒に診ることができます。それが、この地域の一番大きな強みではないでしょうか。

3病院の関係を「ジグソーパズル」に例える貝原先生。それぞれが得意分野を担い、必要に応じて患者さんを受け入れ、補い合う。専門性の異なる病院が、同じエリアに集積する強みを生かした、綿密な連携が根づいています。

持続可能な医療へ 病院経営と人づくり

貝原 今は全国どこの病院もそうですが、物価高騰などもあって経営環境は本当に厳しいですね。当院でも「持続可能な医療体制づくり」のための見直しを進めています。医療は社会に欠かせないインフラですから、現実から目を背けるのではなく、どうすれば続けていけるかを考えていかなければなりません。

杉多 こども病院も同じです。少子化は避けられませんから、ダウンサイジング(病院機能の適正化)は考えていく必要があります。ただ、それは必要な医療を減らすということではありません。高度小児医療をしっかり守るために、病院のあり方を見直していくということです。

平見 専門病院も決して例外ではありません。限られた規模の中で効率的な病院運営を考えながら、医療の質は維持していく。その両立が、これからますます重要になると思います。

貝原 そうした状況だからこそ、人材育成はさらに大事になります。働き方改革で、昔のように時間をかけて教えることは難しくなりました。でも、「何のためにその治療をするのか」という本質は、きちんと伝えなければいけません。当院では海外研修制度も続けていますが、若い先生には一度外へ出て、いろいろな医療を見てきてほしいと思っています。

平見 当院は女性医師が多いので、育児との両立も大きなテーマです。みんなで支え合いながら働ける環境を整えることが、結果として病院全体の力につながっていくと思っています。

杉多 小児科医は育つまでに時間がかかります。だからこそ、人を育てることは未来の医療を守ることでもあります。DX(デジタル技術による業務改革)やAIも活用しながら、「この病院で働きたい」と思ってもらえる環境を作っていきたいですね。ところで、お二人は今も手術をされていますか。

平見 私は今も、手術も外来も続けています。患者さんと直接向き合う時間は、やはり大切にしたいと思っています。

杉多 私は週1回、外来と手術を続けています。診療を通して見えてくることがありますし、スタッフと接する時間も大切にしたいと思っています。

貝原 私はもう診療部からは外れました。病院長が現場へ入ると周りも気を遣いますからね(笑)。でも、お二人が現場に立ち続けておられるのは、本当にすばらしいことだと思います。

厳しさを増す病院経営をはじめ、働き方改革や人材育成など、3病院共通の課題にも話題は及びます。環境が変化する中でも医療の質を守り、次代を担う人材をどう育てていくか、それぞれの立場から率直な意見を交わしました。

少子化を見据えて病院機能の適正化を進めつつ、高度小児医療を守っていく重要性を語る杉多先生。DXやAIも活用した人材育成に力を入れ、将来にわたって質の高い小児医療を届けられる病院づくりを目指します。

神戸だからこそ、新しい医療が生まれる

貝原 私は若い先生によく、「日々の診療で『なぜだろう』と思う気持ちを大切にしてほしい」と話しています。その疑問を解決しようとすることが研究につながりますし、新しい医療にもつながります。この地域には研究機関や企業、スタートアップが集まっています。現場で感じた課題をすぐ相談できる、この距離の近さは神戸ならではの強みですね。

平見 私もそう思います。眼科は再生医療など新しい技術との相性がいい分野です。研究者や企業の方々とも日頃から話ができますし、「こんなことができないだろうか」というアイデアが、そのまま研究や開発につながっていく環境があります。病院だけでも企業だけでも限界がありますから、それぞれが自然につながって、新しい医療を患者さんへ届けられる。そういう環境が、これからもっと発展していくことを期待しています。

杉多 小児医療にも、「こんな医療機器があれば」というアイデアはたくさんあります。ただ、それを形にするには企業の技術だけでなく、薬事承認などさまざまなハードルがあります。現場の声を製品化まで一貫して支える仕組みがもっと充実すると、子どもたちの医療もさらに良くなっていくと思います。

研究者や企業と日頃から交流でき、現場のアイデアを研究・開発へ直結させられる環境に期待を寄せる平見先生。再生医療をはじめとする先進技術を生かし、患者さんへ新たな治療を届ける取り組みを進めています。

それぞれが描く、これからの医療

貝原 医療の目的は、病気を治すことだけではありません。その人らしい人生を送っていただくことが一番大事です。患者さんの人生という大きなパズルの中で、医療も一つのピースです。だからこそ地域の医療機関とも連携しながら、「高度急性期は中央市民病院があるから安心」と思っていただける病院であり続けたいですね。

平見 人生100年時代と言われますが、長生きするだけではなく、最後までしっかり見える状態で生活していただくことが大切です。そのためには治療だけでなく予防も重要ですし、重症化させないことも私たちの役割です。iPS細胞を用いた医療もさらに発展させながら、神戸から全国、そして海外へも新しい医療を発信していきたいと思っています。

杉多 私たちは胎児期から青年期までを診ています。成人期医療への円滑な移行を見据え、身体機能の保持やQOL(生活の質)の向上を図るとともに、成人としての自立に向けた支援を行っていくことが小児医療の重要な役割です。病院の形は時代に合わせて変わっていくかもしれません。しかし、子どもたちやご家族に寄り添う気持ちは変わりません。ミコのような取り組みも大切にしながら、これからも子どもたちの未来を支えていきたいと思います。

多様な医療施設が集まる神戸医療産業都市

神戸・ポートアイランドに近接して立地する、中央市民病院、アイセンター病院、こども病院。それぞれ異なる専門性を持ちながら、距離の近さを活かして日常的に連携し、地域の高度医療を支えています。

※ホスピタル・ファシリティドッグ®「ミコ」

ホスピタル・ファシリティドッグ®とは、専門的な訓練を受け、医療チームの一員として活動する犬。検査や治療への付き添い、ふれあいなどを通じて、入院中の子どもたちの不安やストレスを和らげ、療養生活を支えます。ミコは、西日本のこども病院では初めてとなる、病院専属のファシリティドッグです。

ホスピタル・ファシリティドッグ「ミコ」

神戸の医療を支える3病院

神戸市立医療センター中央市民病院

高度急性期医療を担う神戸市の基幹病院。24時間365日の救命救急体制をはじめ、高度専門医療、周産期医療、がん診療など幅広い分野で地域医療を支えるとともに、教育・研究にも積極的に取り組んでいる。

神戸市立医療センター中央市民病院

神戸市立神戸アイセンター病院

眼科診療に特化した専門病院。再生医療や難治性眼疾患など先進的な診療・研究を推進し、研究機関や企業との連携を生かしながら、新たな治療法の実用化にも取り組んでいる。

神戸市立神戸アイセンター病院

兵庫県立こども病院

県内の高度小児・周産期医療を担う中核病院。新生児から思春期まで幅広い医療を提供するとともに、小児医療を支える人材育成や高度専門医療の発展にも重要な役割を果たしている。

兵庫県立こども病院

~AI×ロボティクスによる研究開発プロセスの新たな実装に向けて~
AI for Science & Lab Automation Summit

日時:2026年7月15日 場所:神戸大学統合研究拠点 コンベンションホール
【主催】 神戸市・公益財団法人 神戸医療産業都市推進機構・国立研究開発法人 理化学研究所・国立大学法人 神戸大学・アイパークインスティチュート株式会社 【特別協賛】 三菱商事株式会社

AIとロボティクスが切り拓く、研究開発の新たな可能性

2026年7月15日、神戸大学統合研究拠点コンベンションホールで「AI for Science & Lab Automation Summit」が開催されました。背景にあるのは、2026年1月に神戸市、神戸医療産業都市推進機構、神戸大学、理化学研究所、アイパークインスティチュート、三菱商事、三菱商事都市開発の7者が締結した連携協定です。研究機関・大学・企業の交流と協働を促し、新たなイノベーションを生み出すエコシステムの形成を目指しています。

サミットのテーマは、「AI×ロボティクスによる研究開発プロセスの新たな実装に向けて」。国内外の研究者や企業が集い、研究の自動化やAI活用の現在地、研究現場への実装について多角的な議論が交わされました。

プログラム前半の基調講演では、次世代の計算・AI基盤をはじめ、AIと自律型ロボットを活用したバイオものづくり、医療現場の革新などが紹介されました。企業講演では、生成AIと自律型ラボを活用した創薬や、研究現場で進む実験の自動化(ラボオートメーション)など、先進的な取り組みが示されました。

後半のファイヤーサイドチャット(パネルディスカッション)では、「自動化・AIが変える研究開発とバイオ・医療の民主化・加速」をテーマに、研究者と企業の専門家が意見を交換。AIや自動化によって研究のスピードや可能性が広がる一方、未知の問いを立てる創造性や、実験で仮説を確かめることの重要性などにも議論が及びました。

研究者や企業の専門家が登壇したパネルディスカッション。AIや自動化による研究開発の変化や可能性について、さまざまな視点から意見が交わされました。

サミットのクロージングでは本サミット主催団体の一つ、アイパークインスティチュートより、神戸医療産業都市に新たに誕生するマルチテナント型ライフサイエンス研究開発施設「アイパーク神戸」の紹介がありました。アイパークインスティチュートは神奈川県藤沢市で「湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)」を運営しており、産学官によるコミュニティづくりを重視したライフサイエンスエコシステムの形成を当地で実現しています。「アイパーク神戸」は人と研究が交わる神戸の新たな拠点として、本サミットでも話題となったバイオものづくり・AIロボティクスなど、ライフサイエンスとの親和性が高い分野との重層的な連携、研究・開発環境の充実化に向け、2027年(予定)の竣工に期待が寄せられています。

アイパーク神戸(完成予定図)

アイパーク神戸(完成予定図)

登壇者・パネリスト

松岡 聡 氏(理化学研究所 計算科学研究センター(R-CCS) センター長)
蓮沼 誠久 氏(神戸大学 先端バイオ工学研究センター長)
村垣 善浩 氏(神戸大学 大学院医学系研究科 医療創成工学専攻教授)
Jianyu(Daniel)Wu 氏(Insilico Medicine, Senior Business Development Manager)
生田目 一寿 氏(アステラス製薬株式会社 イノベーションラボ ラボオートメーションリード)
Ryan Leung 氏(Lila Sciences, VP Head of Life Science Product)
高橋 恒一 氏(理化学研究所 生命機能科学研究センター(BDR) バイオコンピューティング研究チーム チームディレクター)
森本 充 氏(理化学研究所 生命機能科学研究センター(BDR) 呼吸器形成研究チーム チームディレクター)

学びと研究の機会がつなぐ、
次世代へのステップ

神戸市立工業高等専門学校 電子工学科 4年生
明 幸音(あきら ゆきと)さん

神戸で学び、最先端の科学技術に触れながら、自らの可能性を広げる若い世代。理化学研究所計算科学研究センター(R-CCS)の国内インターンシップに選出された、明 幸音さんの挑戦を紹介します。

学内外での学びを、社会に役立つ力へ

神戸市立工業高等専門学校で電子工学を学ぶ明 幸音さん。電子回路や半導体、プログラミングなどの専門知識を深めるかたわら、学外でもコンピュータに関する知見を広げてきました。

プログラミングを始めたのは小学生の頃。高専入学後はCPU※の構造や並列処理※など、コンピュータ内部の仕組みにも関心を広げ、CPUの自作にも挑戦しました。また、「スパコン「富岳」体験塾」(一般財団法人 高度情報科学技術研究機構(RIST)主催、理化学研究所計算科学研究センターで開催)に参加し、スーパーコンピュータ「富岳」を使ったシミュレーションも経験しています。

学外での活動にも継続して取り組み、ハッカソン※などに積極的に参加して実践力を研鑽。昨年はIPA(情報処理推進機構)の「セキュリティ・キャンプ」の選考を通過し、システムの内部構造に関わる成果物を完成させました。

さらに昨年12月には、神戸市主催の「量子技術と神戸の未来」の討論会に、神戸高専の学生代表として登壇。大学生や大学院生とともに、量子コンピュータを神戸の未来にどう生かせるかについて意見を交わしました。討論会では、量子コンピュータを一つの大規模な計算機としてではなく、より身近な形で分散して活用する可能性について意見を発表しました。量子コンピュータの原理や産業での活用について学んだ明さんは、将来的にはスマートフォンや自動車などにも応用し、暮らしの中で活用できる可能性にも関心を広げています。

討論会で発表する明さん
討論会の会場の様子

神戸市主催の「量子技術と神戸の未来」の討論会で発表する明さん(左)と会場の様子(右)。

高専入学後、神戸に「富岳」があることを知り、うれしかったという明さん。「スパコン「富岳」体験塾」への参加などを通じて「富岳」に触れ、プロセッサーや計算機の構造自体にも関心を深めてきました。今回のR-CCSでのインターンシップは、最前線の研究現場でさらに学びを深める貴重な機会となります。

将来の進路については、「可能性を限定せず探求したい」と言う一方で、コンピュータについて学んで得た知識を新しい技術の創出につなげたいという目標も。「自分が興味を持ち、のめり込んで作ったものが、気づけば世の中に浸透して、誰かの役に立っていたら一番うれしい」と話す笑顔が印象的でした。

「富岳」をはじめとする世界最高峰の研究環境が身近にあり、若者が学びを深め、研究者と接し、新たに挑戦できる機会が豊富にある神戸。次代を担う人材の成長を支える環境もまた、神戸の研究開発エコシステムを支える大きな柱となっています。

※CPU…プログラムの命令に従って計算やデータの処理、機器の制御を行う、コンピュータの頭脳となる装置。
※並列処理…ひとつの大きな課題や計算を複数の処理単位に分割し、同時に実行する技術。処理にかかる時間を大幅に短縮できる。
※ハッカソン…ハック(hack)とマラソン(marathon)を組み合わせた造語。エンジニアやプログラマーなどが集まり、特定のテーマに対して短期間で集中的にシステムやサービスを開発・考案し成果を競うイベント。

NEWS

理化学研究所 計算科学研究センター(R-CCS)の1階・展示エリアは、平日(10:00~17:00)および土日祝(10:00~16:00)に一般開放しています。ぜひご利用ください。

理化学研究所 計算科学研究センター 展示エリア