老化研究関連

老化研究における加齢マウスの重要性 

大阪大学 微生物病研究所 教授原 英二

原 英二

大阪大学 微生物病研究所 教授原 英二

先進国ではこの半世紀の間に平均寿命が著しく延長しています。中でも日本の平均寿命延長は目覚ましく、今や世界で最長寿国になっています。寿命の延長そのものは喜ばしいことですが、寿命の延長に伴い、がんや認知症など様々な老化関連疾患の発症率が上昇してきており、今やその対策が喫緊の課題となっています。これまで老化関連疾患の対策はそれぞれの疾患に対して個別に行われてきましたが、そのような対処療法的なアプローチでの効果は限定的です。このため、老化の進行そのものを遅らせることで健康寿命を延伸させるような抜本的な対策が必要であり、その実現には老化制御機構の解明が至要です。
これまで様々なモデル生物を用いた研究により、種を超えて保存された老化制御機構が存在することが明らかになってきました。中でも、インスリン・IGF-1シグナル、TORシグナルや細胞老化などが老化制御において重要な役割を担っていることが明らかになっています。しかし、これら種を超えて保存された老化制御機構は進化の過程で作用機序や役割が変化し、更に種特異的な調節因子も加わり、ヒトおいてはより複雑になっていることが予想されます。このため、ヒトの老化制御機構を解明するためにはヒトに近い動物である哺乳類を用いた研究が必要です。
マウスは寿命に影響を及ぼすことが知られている遺伝要因や環境要因を統一して解析が行え、更に遺伝子改変を含めた様々な解析技術を駆使した実験が可能です。このためヒトの老化制御機構の解明を目指した研究に極めて有用な哺乳動物であると言えます。しかし、実験用のマウスは寿命が2年~3年と線虫やショウジョウバエ等他のモデル生物に比べるとかなり長いため、加齢したマウスを常時十分な数用意することは困難です。特に若手の研究者には経済的な負担が大きく、このことが老化研究の進展を阻む最大の要因になっていると考えられます。本事業では老化研究に最もよく使用されるC57BL/6系統のマウスを統一された環境下で常時、十分な数、長期飼育することで、適切な加齢マウスをタイムリーかつ安価に研究者に提供することを目的としています。本事業により、日本の老化研究の進展が格段に進むことが期待されます。是非、多くの研究者に本事業を活用して頂きたいと願っております。