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2022.06.29

神戸医療産業都市推進機構 血液・腫瘍研究部の研究成果が、米科学誌『Blood』にオンライン掲載されました。

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詳細な内容

がん遺伝子EVI1の再構成を伴う予後不良白血病における新規機構
〜EVI1自身のスプライシング異常の同定〜

 公益財団法人神戸医療産業都市推進機構(FBRI、理事長:本庶佑)は、先端医療研究センター血液・腫瘍研究部(井上大地研究室)の研究成果が2022年6月16日、血液学分野におけるトップジャーナルである米科学誌『Blood』に掲載されましたので、お知らせします。
[ 研究者情報 ]
田中 淳 特任研究員(筆頭著者)
 神戸医療産業都市推進機構 先端医療研究センター血液・腫瘍研究部
 京都大学大学院博士課程在籍
井上 大地 部長(責任著者)
 神戸医療産業都市推進機構 先端医療研究センター血液・腫瘍研究部
 井上研究室ウェブサイト
[ 研究成果 ]
 造血幹細胞における遺伝子変異や染色体の構造異常によって引き起こされる急性骨髄性白血病(AML)においては、近年の解析技術の発展により、さまざまなリスク層別化が進み、予後が極めて不良な白血病が抽出されてきました。その代表的なものに「3番染色体の逆位や転座を伴うAML」が挙げられ、診断後の生存期間中央値が1年程度と、現在においても治癒することが極めて困難なAMLと言えます。
 本研究では、まず、3番染色体の逆位や転座を伴うAMLが他にどのような遺伝子変異と合併しているのかに注目して、スプライシング因子であるSF3B1遺伝子の変異が32%と高頻度に合併することを見出しました。他のAMLでは4%以下であることを考慮すれば、突出した値であり、両者の機能的なリンクが予想されました。これまでに、3番染色体の逆位や転座を伴うAMLでは、がんを誘導する転写因子であるEVI1の発現量が染色体構造変化によって著増することが知られていますが、協調的に寄与する遺伝子変異についての生物学的な理解は乏しいままでした。
 そこで、ヒト・マウスの両面から検討をすすめ、SF3B1遺伝子変異が3番染色体の逆位と協調的に働いてAMLを誘導すること、両者が導入された細胞では、特徴的な遺伝子発現やスプライシングの変化をきたしていることを明らかにしました。とりわけ、EVI1自身が特徴的なスプライシング異常を受けて、これまで全く知られていなかったアイソフォームがSF3B1遺伝子変異によって誘導されていることを見出しました。具体的には、6アミノ酸が誤ってEVI1のDNA結合領域近傍に挿入され、それによりゲノムへの結合に変化が生じ、より強く腫瘍化を誘導するという現象を捉えることができました。さらに、このような新しいアイソフォームの形成には、EVI1遺伝子自身のどのような配列に依存しているのかについても詳細に検討しました。
 これらの成果は、極めて予後不良な3番染色体の逆位や転座を伴うAMLの病態解析に基づいた治療応用につながる成果であるだけでなく、「スプライシング異常を起点としてがん遺伝子がより悪い方向に機能変化をきたす」という新しい概念を提唱するものとして、今後のがん生物学・臨床医学両面の発展に寄与することが期待されます。
 本研究成果は田中淳特任研究員(京都大学大学院博士課程在籍)を筆頭著者、井上大地血液・腫瘍研究部長を責任著者として、Blood誌にオンライン掲載(リンク:英語)されました。
Authors:
Atsushi Tanaka 1 2, Taizo A Nakano 3, Masaki Nomura 1 4, Hiromi Yamazaki 1, Jan Philipp Bewersdorf 5, Roger Mulet-Lazaro 6 7, Simon Hogg 5, Bo Liu 5, Alex Penson 5, Akihiko Yokoyama 8, Weijia Zang 1 8, Marije Havermans 6 7, Miho Koizumi 9, Yasutaka Hayashi 1, Hana Cho 5, Akinori Kanai 10 11, Stanley C Lee 12 13, Muran Xiao 1 10, Yui Koike 1, Yifan Zhang 1 8, Miki Fukumoto 1, Yumi Aoyama 1 8, Tsuyoshi Konuma 14, Hiroyoshi Kunimoto 14, Toshiya Inaba 11, Hideaki Nakajima 14, Hiroaki Honda 9, Hiroshi Kawamoto 2, Ruud Delwel 6 7, Omar Abdel-Wahab 5, Daichi Inoue 1
Affiliations:
1 Foundation for Biomedical Research and Innovation, Kobe, Japan.
2 Institute for Frontier Life and Medical Sciences, Kyoto University, Kyoto, Japan.
3 University of Colorado, Aurora, Colorado, United States.
4 Facility for iPS Cell Therapy, CiRA Foundation, Kyoto, Japan.
5 Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, New York, United States.
6 Oncode Institute, Utrecht, Netherlands.
7 Erasmus MC, Rotterdam, Netherlands.
8 Kyoto University, Kyoto, Japan.
9 Tokyo Women's Medical University, Tokyo, Japan.
10 The University of Tokyo, Japan.
11 Hiroshima University, Hiroshima, Japan.
12 Fred Hutchinson Cancer Center, Seattle, Washington, United States.
13 University of Washington, Seattle, Washington, United States.
14 Yokohama City University Graduate School of Medicine, Yokohama, Kanagawa, Japan.
Title of original: Aberrant EVI1 splicing contributes to EVI1-rearranged leukemia.
Journal: Blood. 2022 Jun 16:blood.2021015325.
doi: 10.1182/blood.2021015325. Online ahead of print. PMID: 35709354
[用語解説]
急性骨髄性白血病:
 造血の場である骨髄中で未熟な造血幹細胞ががん化した悪性疾患。骨髄芽球とよばれる幼若な細胞に占拠され、機能的な細胞への分化が抑制されるため、免疫機能の低下、貧血、出血傾向などを呈する。
染色体逆位・転座:
 染色体が切断された際に誤って再結合することにより、逆位や転座が生じる。再結合が1つの染色体内で生じ、2個所の切断端の間に挟まれた染色体分節の方向が逆になる場合を逆位と呼ぶ。切断された染色体末端の再結合が2つの染色体で生じる場合、2つの異常染色体はそれぞれ他の染色体の一部と結合し、元の染色体の一部が欠落する。この場合を転座と呼ぶ。3番染色体の逆位や転座では、GATA2遺伝子を活性化するエンハンサーと呼ばれる制御領域が、誤ってEVI1遺伝子に近接するため、EVI1の異常な高発現が誘導される。
スプライシング:
 DNAから転写されたメッセンジャーRNA前駆体から不必要な部分(イントロン)を除き、必要な部分(エキソン)を連結する反応を指す。SF3B1はこの反応に不可欠な分子であり、その変異はスプライシングの「ずれ」を引き起こしがん化に繋がることが知られている。

お問い合わせ先

広報戦略課

お知らせ配信日

2022年06月29日

入力者

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